相手を否定せずに意見を伝える方法 印象が良くなる言葉の選び方
会議やチャットで、自分は丁寧に意見を伝えたつもりなのに、なぜか場の空気が固まってしまうことがあります。
相手の案にそのまま賛成はできない。けれど、関係は悪くしたくない。
そんなときに頼りになるのが、相手を否定せずに意見の違いを伝えるための言葉選びです。
大事なのは、内容への意見と、その人への評価を切り分けることです。
そのうえで、事実ベースで話し、自分の見方として伝え、相手の意図も尊重する。
少し意識するだけで、同じことを言っていても印象は変わっていきます。
この記事では、職場のリアルなシーンを想定しながら、今日から使えるフレーズと考え方を整理していきます。
この記事で分かること
- 相手を否定せずに意見を伝えるための基本的な考え方
- 否定と受け取られやすい言い方の特徴と、避けたい表現
- まず受け止めてから自分の意見を出すステップと具体フレーズ
- 事実と解釈を分けて伝えることで印象を保つコツ
- 上司や同僚、部下、取引先など立場別の言い方と、使う前に確認したいチェックポイント
相手を否定せずに意見を伝えるとは

相手の考えにそのまま賛成できない場面は、仕事の中で何度も出てきます。
ただ、そのたびに強く言い返したり、相手の案を一刀両断していると、関係は少しずつぎくしゃくしていきます。
ここで整理しておきたいのが、意見の違いと、相手そのものの否定を分けて考える視点です。
案や方法について別の考えを出すことは、必ずしも相手を否定しているわけではありません。
しかし、言い方やタイミングによっては、相手からは自分が否定されたように感じられてしまうことが多いでしょう。
とくにビジネスの場では、限られた時間で結論を出す必要があります。
そのため、つい結論だけをはっきり伝えようとしがちです。
その結果、違う意見を出したつもりが、あなたの案は良くないというメッセージとして届いてしまうことがあります。
また、会議やチャットでは感情の細かなニュアンスが伝わりにくい特徴があります。
文字だけ、短い一言だけでやり取りをすると、口調は丁寧でも、内容が強く感じられることもあるでしょう。
このような環境では、少しの言葉選びの違いが、想像以上に印象を左右します。
相手を否定せずに意見を伝えるというのは、
- 相手の考えを一度受け止める
- どこが違うのかを事実ベースで共有する
- 自分の視点として提案す
という流れを意識することでもあります。
ビジネスシーンで起こりがちな意見のぶつかりは、多くの場合、内容そのものよりも、
- どう切り出したか
- どんな言葉を選んだか
- どこまで相手の立場を踏まえたか
といった部分で関係悪化につながりやすいといえます。
まずは、否定と意見の違いを整理し、人がなぜ意見の違いを否定と受け取りやすいのかを押さえておくことが出発点になるでしょう。
否定と意見の違いを整理する
相手を否定しない伝え方を考えるとき、何をもって否定と呼ぶのかを一度言葉にしておくと整理しやすくなります。
賛成ではないことや、別の案を提案すること自体は、仕事ではごく自然な行為です。
むしろ、常に賛成だけが続く方が、不自然に見える場面もあるでしょう。
大事なのは、どの部分に対して意見を述べているのかをはっきりさせることです。
例えば、
この進め方には懸念があります
この部分のスケジュールは見直した方が安全だと思います
といった言い方であれば、対象はあくまで案や計画です。
一方で、
その考え方はおかしいと思います
やる気が足りないのではないですか
のように、相手の価値観や能力そのものに踏み込む言い方になると、否定として受け取られやすくなります。
同じ内容を伝える場合でも、
案に対するコメントなのか
相手の性格や姿勢への評価なのか
この線引きがあいまいになるほど、相手は自分が評価されていると感じやすくなります。
相手を否定せずに意見を伝える第一歩は、
- 何について話しているのか
- どの部分に違いを感じているのか
を、言葉の中で明確にしていくことだと考えられます。
なぜ人は意見の違いを否定と感じやすいのか
意見の違いが起きたとき、多くの人は自分の案そのものだけでなく、自分自身も評価されているように感じます。
自分の案に時間や労力をかけているほど、その傾向は強くなるでしょう。
自分の案は、自分の経験や価値観から生まれたものです。
そのため、案を否定されたように感じると、考え方や能力まで否定されたような気持ちになりやすくなります。
さらに、立場によっても、否定に感じやすいシーンは変わります。
部下や後輩の立場では、上司からの言葉は評価と結び付きやすいです。
少し強めの言い方でも、昇進や評価への影響を意識して、必要以上に重く受け止めてしまうかもしれません。
同僚同士でも、チーム内の力関係や、人間関係の微妙なバランスがあります。
普段から遠慮がちな人ほど、軽いつもりの一言でも、反対されたと感じやすいでしょう。
一方で、自分が上の立場にいるときは、日常的に多くの意見を扱っているため、
これは案について話しているだけ
という感覚が強くなりがちです。
そのギャップが、意見の違いを否定として受け取らせる要因にもなります。
こうした心理を踏まえると、相手を否定せずに意見を伝えるには、
相手にとっては、自分の案と自分自身が結びついているかもしれない
という前提を持ちながら言葉を選ぶことが大切だといえます。
このあと紹介するコツは、単にやわらかい表現を覚えるだけでなく、こうした相手の受け取り方を踏まえた伝え方として活用していけるはずです。
否定と受け取られやすい言い方の特徴
相手を否定するつもりがなくても、言葉の選び方によっては強い印象を与えてしまうことがあります。
内容が同じでも、言い方一つで雰囲気が変わる場面は多いでしょう。
まず意識したいのは、正しさを一方的に示す表現かどうかという点です。
自分の考えを基準にして、相手の考えを良いか悪いかで判断する言い方は、どうしても上からの印象になりやすくなります。
さらに、相手の性格や能力そのものに触れる言葉が重なると、意見の違いを超えて「自分が否定された」と受け止められる可能性が高まります。
また、はっきりと反対と言っているわけではないのに、遠回しの否定や皮肉のような表現が続くと、相手はどう受け取ればよいか迷います。
表面上は柔らかそうに見えても、実質的には反対している。
そのギャップが、かえって不信感やモヤモヤを大きくしてしまうこともあるでしょう。
同じ言葉でも、相手との距離感や場面によって聞こえ方は変わります。
親しい同僚同士なら冗談として流せる一言も、評価する立場にある上司から言われると重く響きます。
対面で表情や声のトーンが伝わる場面と、チャットやメールのように文字だけが残る場面でも、受け取り方は大きく変わるはずです。
ここでは、否定と受け取られやすい代表的な言い方を三つの観点から整理していきます。
- 正しさを押し付ける言い方
- 人格に踏み込む表現
- 曖昧な否定や皮肉
この三つを押さえておくと、自分の普段の話し方を見直す手がかりになるでしょう。
正しさを押し付ける言い方
自分の考えに自信があるときほど、つい断定的な表現になりがちです。
例えば、会議の場で「それは違います」とだけ伝えると、自分の案こそが正しいというメッセージになりやすくなります。
一方で、「こういう見方もあります」のように、自分の意見を選択肢の一つとして出すと、相手も受け止めやすくなるでしょう。
断定口調は、スピードが求められる場面では役に立ちます。
ただ、相手との関係を維持したい場面では、圧の強さとして働くことが多いです。
特に、部下や後輩に対して一方的に正解を示す形になると、自分で考える余地がないと感じさせてしまいます。
内容としては同じ指摘でも、
- これが正解だという前提で話しているか
- 一つの案として共有しているか
この違いだけで、受け取る側の心理的なハードルは大きく変わります。
相手を否定せずに意見を伝えたいときは、
- 相手の案を一度踏まえたうえで、自分の考えを追加する
- 別の角度から見たときのリスクや利点を共有する
といった姿勢を意識すると、押し付け感を抑えやすくなるはずです。
人格に踏み込んでしまう表現
意見のすれ違いが続くと、つい相手の性格や能力にまで話が及んでしまうことがあります。
例えば、「いつもこうですよね」「そういう考え方だからダメなんです」といった言い方です。
ここまで踏み込んでしまうと、論点は内容から外れ、相手そのものを評価している印象が強くなってしまいます。
本人としては、繰り返し起きているパターンを指摘しているつもりかもしれません。
ただ、言われた側からすると、自分の努力や工夫が一括りにされているように感じやすくなります。
一度こうした言葉を受け取ると、その後の会話でも防御的になり、素直な意見交換が難しくなるでしょう。
本来、改善したいのは行動や手順、進め方のはずです。
それにもかかわらず、人柄や資質の問題として語られてしまうと、相手は何を変えればよいか分からなくなります。
結果として、行動が変わらないまま、関係だけが悪くなるという状態に陥りやすくなります。
相手を否定せずに意見を伝えるためには、
- 誰が悪いかではなく、どの行動を変えるとよいか
- 性格の話ではなく、具体的な場面で何が起きたか
この二点を意識して言葉を選ぶことが重要だといえるでしょう。
曖昧な否定や皮肉が生むモヤモヤ
はっきりと反対を示すのは避けたい。
その気持ちが強いと、今度は遠回しの否定や皮肉のような表現になりがちです。
例えば、「まあ、そういう考えもあるかもしれませんけど」といった言い方です。
一見すると柔らかく聞こえるかもしれません。
しかし、言われた側は「結局どう思っているのか」「賛成なのか反対なのか」が分からず、モヤモヤだけが残ります。
立場が弱い側からすると、はっきり反論すると角が立ちそうで、確認もしにくいと感じるでしょう。
また、冗談めかした言い方や、笑いを交えた皮肉も注意が必要です。
その場の空気では笑いが起きても、後から思い返したときに、否定だけが残ることがあります。
文字としてチャットやメールに残った場合、第三者が読んだときにきつい表現に見えることもあるでしょう。
曖昧な否定は、関係を守っているように見えて、実際には問題の先送りになりやすいです。
- 本当に伝えたいことがあるなら、
- どの点に懸念があるのか
- どこを変えると進めやすくなるのか
といった具体的な部分に言葉を割いた方が、お互いにとって安心感が高まります。
否定に聞こえやすい言い方の特徴を押さえておくと、自分の発言を一度頭の中でチェックしやすくなります。
このあと扱うコツでは、相手を否定せずに意見の違いを伝えるための具体的な言い回しを整理していきます。
コツ1 相手の考えを受け止めてから自分の意見を出す
意見が違うと感じたときほど、自分の考えを早く伝えたくなるものです。
ただ、そこでいきなり自分の意見だけをぶつけると、内容が正しくても、相手は聞く姿勢になりにくいでしょう。
相手を否定せずに意見を伝えたいときは、いったん相手の考えを受け止める一言を挟むことが土台になります。
ここでの受け止めは、賛成することとは別です。
相手が何を大事にして話しているのか、その前提や感情を一度受け取ろうとする姿勢そのものが、印象をやわらげます。
例えば、提案を聞いた直後に
これは違うと思います
とだけ返すと、相手は自分の案そのものを否定された感覚を持ちやすいです。
一方で、まず狙いや工夫のポイントを確かめ、そのうえで別の考えを足す流れにすると、同じ内容でも受け取り方は変わっていきます。
上司、同僚、部下といった立場の違いも、このコツの効果を左右します。
立場が上であるほど、少しの言葉が評価のメッセージとして伝わりやすくなります。
だからこそ、最初の一言で相手の意図を尊重していることを示すと、その後の指摘や別案にも耳を傾けてもらいやすくなるでしょう。
このコツでは、
- 最初に受け止めるひと言を添えること
- 相手の意図を確認してから自分の意見を出すこと
という二つのポイントを押さえていきます。
最初に受け止めるひと言を添える
相手の考えに完全に賛成できなくても、話の一部には共感できる点や、評価したいポイントが含まれていることが多いです。
そこを最初に言葉にしてから、自分の意見を続けると、相手は聞く構えを取りやすくなります。
例えば、同僚の提案に対しては、次のような受け止めの一言が考えられます。
- なるほど、その視点は大事だと思います。
- この部分の発想が新しくて良いと感じました。
上司として部下にフィードバックするときなら、少し安心感を意識した表現が合うでしょう。
- 全体として方向性は良いと思います。
- ここまでまとめてくれて助かっています。
一方、部下や後輩が上司に対して意見を言う場合は、相手の経験や判断への敬意を含んだ受け止め方が安心感につながります。
- お考えの趣旨は理解できました。
- お話を伺って、背景は把握できたつもりです。
大事なのは、最初の一文で
- 話を聞いている
- 理解しようとしている
という姿勢が伝わるかどうかです。
この一言があるだけで、そのあとの
- 一つ気になった点があります
- 別の案も検討できるかもしれません
といった続きが、単なる反対意見ではなく、建設的な提案として受け止められやすくなるでしょう。
相手の意図を確認してから意見を述べる
相手の案をきちんと理解できていないまま、自分の意見を伝えると、ずれた指摘になりがちです。
その結果、相手は
- ちゃんと聞いてもらえていない
- 理解されていないのに否定された
と感じやすくなります。
これを防ぐために有効なのが、意見を述べる前に相手の意図を確認するひと言です。
質問と要約を挟み、そのあとに自分の考えを伝える流れにすると、否定感がぐっと薄れます。
質問の例としては、次のような言い方があります。
- つまり、今回の狙いは〇〇という理解でよいでしょうか。
- この案で一番重視されているのは、どのポイントでしょうか。
一度相手の答えを受けたうえで、要約を挟みます。
今のお話を整理すると、コストを抑えつつスピードを優先したい、ということですね。
ここまでの確認ができたあとで、ようやく自分の意見を続けます。
- その前提を踏まえると、もう一つこういう案もありそうだと感じました。
- コスト面はその通りだと思いますが、リスクの観点からは別案も検討した方がよいかもしれません。
流れとしては、
質問する → 自分の言葉で要約する → 自分の意見を足す
という順番になります。
この順番を意識すると、相手は
- 自分の意図は理解してもらえた
- そのうえで別の考えが出てきている
と感じやすくなり、意見の違いそのものを冷静に受け止めやすくなるでしょう。
コツ2 印象を保つ言葉の選び方(事実と解釈を分ける)

同じ内容でも、
評価の言葉で伝えるか
事実ベースで伝えるか
この違いだけで、受け取る印象はかなり変わります。
きつく聞こえやすい注意の多くには、
遅い
雑だ
ちゃんとしていない
といった「評価のラベル」が含まれています。
これらは短くて便利ですが、相手の人格や能力に踏み込んだメッセージとして伝わりやすい言葉でもあります。
そこで意識したいのが、事実と解釈を分けるという考え方です。
- 起きた事実は何か。
- その結果、どんな影響が出ているか。
- そのうえで、次にどうしてほしいのか。
この三つを分けて言葉にすると、感情的な評価に頼らずに伝えやすくなります。
例えば
提出が遅いです
とだけ言うと、相手は自分の仕事ぶりを否定されたように感じやすいでしょう。
一方で
- 予定していた時刻より30分遅れての提出になりました
- そのぶん、先方への連絡が後ろ倒しになっています
- 次回は開始の1時間前までに共有をお願いしたいです
のように分けて伝えると、責められている印象は弱まり、具体的な行動に意識を向けやすくなります。
また、明らかな誤りやリスクがあるときも、
- 間違っています
- このやり方はおかしいです
と断定してしまうと、相手は身構えがちです。
そこで、解釈や評価そのものを少しやわらかく包む表現を使うと、同じ指摘でも受け取りやすい形になります。
ここでは、
- 事実ベースで伝えると印象が変わる理由
- 解釈や評価をやわらかく伝えるフレーズ
この二つの観点から、言い換えのコツを整理していきます。
事実ベースで伝えると印象が変わる理由
評価の言葉は短くまとまりやすい反面、相手の「能力評価」として受け取られやすくなります。
一方で、事実ベースの表現は、状況の共有に軸が移ります。
そのため、感情的な衝突になりにくく、話し合いの土台を作りやすくなります。
評価ベースの言い方と、事実ベースの言い方を比べてみます。
- 評価:対応が遅いです
- 事実:予定より30分遅れての返信になりました
- 評価:説明が分かりにくいです
- 事実:仕様の変更点について、先方が把握しきれていない様子でした
事実を述べるだけでは冷たく感じる場合は、
事実+影響+お願い
の順で組み立てると、相手も次に何をすればよいか理解しやすくなります。
例としては、次のような形です。
- 昨日の資料共有が予定より30分遅れました。
- その影響で、先方への説明が駆け足になりました。
- 次回は開始時刻の1時間前までにドラフトを共有してもらえると助かります。
- 先ほどの説明では、仕様変更の背景が先方に伝わり切っていない印象でした。
- このままだと、開発側との認識差が残る可能性があります。
- 次回の打ち合わせでは、変更の理由を最初に整理して共有する形にしませんか。
このように
- 何が起きたか
- どんな影響があるか
- どうしてほしいか
を分けて伝えるだけで、相手を責める口調に頼らなくても、必要な指摘を行うことができるはずです。
解釈や評価をやわらかく伝えるフレーズ
とはいえ、事実だけでは伝わらない場面もあります。
リスクの大きさや、問題意識の強さを共有したいときには、自分の解釈や評価を補う必要があるでしょう。
その際にポイントになるのが、
- 相手を断定しない
- 自分の見方として示す
という二つの工夫です。
例えば、
ここは間違っています
という言い方は、相手の判断全体を否定する印象が強くなります。
次のような言い換えにすると、トーンを少し下げられます。
- ここは一つ、確認したい点があります。
- この部分の前提だけ、もう一度一緒に見直してもよいでしょうか。
- この数値について、自分の認識と少し違いがあるように感じています。
また、
このやり方はおかしいです
のような表現も、評価が前面に出ます。
次のように、自分の懸念として伝えると、対話の余地が生まれます。
- この進め方だと、納期の面で少しリスクがありそうに思います。
- この案ですと、サポート側の負担が増える点が少し気になりました。
完全否定を避けつつ、違和感や懸念を言葉にするときのポイントは、
- 断定ではなく、自分の見え方として表現する
- 主語を「あなた」ではなく「この案」「この進め方」に置く
という二点です。
解釈や評価をやわらかく伝えるフレーズをいくつか持っておくと、
- 問題はきちんと共有しつつ
- 関係は傷つけにくくする
というバランスを取りやすくなるでしょう。
コツ3 私メッセージとクッション言葉で柔らかく伝える
注意や意見を伝えるとき、主語が誰になっているかで印象はかなり変わります。
君が悪い という形だと、相手そのものを評価しているように聞こえやすくなります。
一方で、私はこう感じた のように、自分を主語にすると、評価ではなく感想として届きやすくなります。
同じ内容でも、
あなたは間違っています
ではなく
自分はこの点が少し気になりました
という言い方に変えるだけで、受ける圧は下がるでしょう。
相手は責められている感覚よりも、情報を共有されている感覚に近づきます。
さらに効果的なのが、私メッセージにクッション言葉を組み合わせる方法です。
話し始めに一言添えるだけで、指摘や意見のトーンがぐっと柔らかくなります。
いきなり本題に入るのではなく、相手への配慮や前置きを短く入れるイメージです。
ここでは、
- 私を主語にした伝え方の型
- 角を立てにくいクッション言葉の活用
という二つのポイントから、実際に使いやすい言い回しを整理していきます。
私を主語にした伝え方の型
私メッセージの基本は、主語をあなたではなく私にすることです。
あなたは遅い という言い方は、相手の能力を評価しているように響きます。
それを私はこう感じました という形に変えると、自分の受け取り方を共有する表現に変わります。
例えば、次のような言い換えが考えられます。
- あなたの説明は分かりにくいです
→ 自分はこの部分の説明を少し理解しきれていないと感じました - あなたの対応は遅いです
→ 自分の想定よりも時間が掛かった印象を持ちました
主語を変えると、評価から感想に近づきます。
- 同時に、相手も
- どこがどう見えているのか
という点に意識を向けやすくなります。
感情をそのままぶつけるのではなく、少し整理した言葉に置き換えることも大切です。
- 正直、がっかりしました
→ 正直にお伝えすると、期待していた内容とは少しギャップを感じています - すごく困っています
→ 現状のままだと、自分の担当分の進行に支障が出そうだと感じています
このように、
- 私はどう感じたか
- 自分の仕事にどう影響しているか
を落ち着いたトーンで伝えると、感情の共有と状況の共有を同時に行えます。
私メッセージは、相手を裁く言い方を避けつつ、本音を隠さないための方法と言えます。
言葉にする前に、主語がどちらになっているかを一度確認する習慣を持つと、きつく聞こえる場面を減らしやすくなるでしょう。
角を立てにくいクッション言葉の活用
私メッセージに、ひと言のクッションを足すと、さらに柔らかい印象になります。
急に指摘や違和感だけを伝えるよりも、前置きで相手への配慮を示す形です。
代表的なクッション言葉には、次のようなものがあります。
- 大変恐れ入りますが
- 一点だけ気になったことがあります
- 差し支えなければ自分の感じた点を共有させてください
ビジネスメールで使いやすい形なら、次のような組み合わせが考えられます。
- 大変恐れ入りますが 自分の理解と少し異なる点がございましたので共有いたします
- 一点だけ気になった点がありましたので 参考までにお伝えいたします
会議や対面の場であれば、少し短くしても機能します。
- 失礼かもしれませんが 一つだけ自分の考えをお伝えしてもよいでしょうか
- 少し気になった点があるので 自分の見え方を共有させてください
チャットでは、文字数を抑えつつトーンをやわらげたい場面が多くなります。
- 少しだけ気になる点があり 自分の考えを送ります
- 念のため 自分の認識も共有させてください
クッション言葉は、指摘の内容そのものを変えるわけではありません。
ただ、
- いきなり評価しない
- 相手に配慮しながら話したいという意思を示す
という役割を持ちます。
私メッセージとクッション言葉をセットで使うと、
- 自分の感じていることは率直に伝えつつ
- 相手の立場も尊重する
というバランスを取りやすくなります。
意見が食い違う場面ほど、最初の一文の置き方を意識してみるとよいでしょう。
場面別 相手を否定せずに意見を伝える言い方例

ここからは、具体的な場面ごとにフレーズのイメージをつかんでいきます。
同じ内容でも、立場によって「安全な言い方」「重く聞こえる言い方」が変わります。
上司や先輩に対しては、判断への敬意を示しながら別案を出す必要があります。
同僚に対しては、対等な関係を崩さずに議論したい場面が多いでしょう。
部下や後輩には、成長を妨げずに方向性を示す言い方が求められます。
取引先や社外には、丁寧さと率直さのバランスが欠かせません。
それぞれのシーンで使いやすい型を押さえておくと、その場で言葉を探す負担が減ります。
ここでは四つの立場ごとに、流れとフレーズ例を整理します。
上司や先輩に別の意見を伝えるとき
上司や先輩に対しては、
- 最初に判断や経験への敬意を示す
- そのうえで、自分の視点を「追加」として出す
この二段構えを意識すると、否定感を与えにくくなります。
会議で別案を出したい場面なら、次のような流れが考えられます。
まず受け止める一言。
先ほどのご提案、コスト面の配慮が特に重要だと感じました。
そのあとに自分の意見を足します。
- その前提を踏まえつつ、もう一つ検討できそうな案があります。
- 同じ方向性ではありますが、少しだけ別の切り口もあるかもしれません。
一対一の面談や1on1のように、落ち着いて話せる場では、意図の確認から入ると丁寧です。
- 先ほどの施策について、狙いの部分を自分なりに整理してみました。
- そのうえで、一点だけ別の可能性もあるように感じています。
メールで伝える場合は、文章が一人歩きしやすいので、感情ではなく「見え方」として書くとよいでしょう。
- 自分の理解では、今回のご方針は〇〇を重視されていると受け止めております。
- そのうえで、リスクの観点から一つだけ懸念点がありましたので、共有させていただきます。
あくまで上司の判断を補う立場であることを示すと、意見の違いも対立ではなく「検討材料」として扱われやすくなります。
同僚と意見が分かれたとき
同僚同士のやり取りでは、関係性が近い分だけ、ぶつかり合いも起きやすくなります。
ここでは、
自分の案と相手の案を「比較」ではなく「並べて見る」
という意識を持つと、対立感が和らぎます。
口頭で話し合うときのひと言は、次のような形が使いやすいでしょう。
- 自分はこういう進め方をイメージしていました。
- 一方で、今出してくれた案にもメリットがあると感じています。
そのうえで、違いを整理します。
- スピードを重視するなら自分の案が向いていそうで、確実性を重視するなら今の案が合いそうです。
- どちらを優先するかを、ここで決めてしまった方が良さそうですね。
チームチャットでは、感情が伝わりにくいぶん、文章のトーンが重要になります。
- 自分の案も一つの選択肢として共有させてください。
- 先に出してもらった案と比べると、工数面でこういった違いがありそうです。
対立を避ける、というよりは
どの案にも一理ある
条件によって向き不向きが変わる
という前提で話すと、議論が個人対立になりにくくなります。
部下や後輩の提案を否定せずに修正したいとき
部下や後輩の提案に対しては、
- 良い点を先に示す
- そのあとで、リスクや改善点を具体的に伝える
- 最後に「今回はこうしよう」と方向性を示す
という三段階に分けると、受け止めやすい形になります。
最初に認める一言。
- この部分の発想はとても良いと思いました。
- 限られた時間の中で、ここまで整理してくれて助かっています。
次に、修正が必要な点を事実ベースで伝えます。
- そのうえで、スケジュールの面ではリスクが少し高いと感じています。
- この条件のままだと、先方の要件を満たしきれない可能性があります。
そして、具体的な方向性を示します。
- 今回は、コストより納期を優先したいので、こちらの案に寄せる形で調整していきましょう。
- 良いと思った部分は残しつつ、この点だけは修正したいので、一緒にやり方を考えましょう。
メールでのフィードバックなら、次のような流れも使えます。
- 全体として、方向性は問題ないと感じています。
- 一点だけ、リスクの観点から修正したい箇所がありますので、下記のように変更してもらえますでしょうか。
提案そのものを否定するのではなく、
- どこを評価しているのか
- どこを変えたいのか
を分けて伝えると、本人のやる気を保ちやすくなります。
取引先や社外の相手に言いづらいことを伝えるとき
社外の相手に対しては、率直さと丁寧さの両方が求められます。
相手の案をそのまま受け取れないときも、まずは感謝や理解を示し、その後で調整したい点を伝える流れが基本になります。
ビジネスメールでの一例は、次のような形です。
- この度はご提案内容の詳細をご共有いただき、誠にありがとうございます。
- 全体として大変魅力的な内容と感じております。
そのうえで、難しい点に触れます。
- 一方で、弊社側の体制上、現状のスケジュールでの進行は難しい状況でございます。
- つきましては、開始時期について下記の通り調整をお願いできればと存じます。
条件を修正したいときは、相手の意図を否定せずに、自社の制約として説明すると受け入れられやすくなります。
- ご提示の条件は十分に理解しておりますが、弊社の予算上、現行の金額でのご契約が難しい状況でございます。
- 大変恐れ入りますが、〇〇円〜〇〇円の範囲で再度ご検討いただくことは可能でしょうか。
相手の案をそのまま受けられない場合でも、
- 提案への感謝
- 理解している点
- 自社の事情
- 代替案や相談したい方向性
を順番に伝えると、関係を傷つけずに調整しやすくなります。
言いづらいことほど、最初の数行の置き方で印象が変わります。
否定から入るのではなく、理解と感謝から入り、事実と要望を分けて書くことが、社外に対しての基本スタンスになるでしょう。
避けたい言い方とNG例の言い換え
意見を伝えたいだけなのに、言い方一つで「否定された」と受け取られることがあります。
内容より前に、言葉のトーンで心のシャッターが下りてしまう。
その状態では、いくら正しいことを言っても届きにくくなります。
ここでは、なるべく避けたい表現と、実際にどう書き換えればよいかを整理します。
ポイントは三つです。
- 相手を正面から否定するような言葉を減らすこと。
- 問い詰めるような質問を、確認や共有のスタンスに変えること。
- メールと口頭でニュアンスが変わる点を踏まえて、少しだけ情報を足すこと。
一文を少し直すだけで、相手の受け取り方は大きく変わります。
ここで紹介するビフォーアフターを、自分のメッセージを見直すときのひな型として使っていただければと思います。
対立を強めてしまう表現の代表例
対立を強める言い方の特徴は、
- 相手の考えを一度で否定すること。
- 相手の判断力を疑うような聞き方をすること。
例えば、次のような一言です。
- それは違います
- どうしてそんな考えになるのですか
これらは、内容として間違いとは言い切れません。
ただ、受け手からすると「自分の考えが否定された」「理解力を疑われた」と感じやすくなります。
それは違います という断定は、相手の案に含まれている良い部分までまとめて否定する印象を与えます。
どうしてそんな考えになるのですか という問いは、理由を知りたいだけでも、言い方次第で責めているように聞こえます。
また、次のような表現も、状況によっては強く響きます。
- 前にも言いましたが
- 普通はこう考えますよね
これらは、相手の記憶や常識を責めているようなトーンになりがちです。
事実を伝えたいだけのつもりでも、相手の立場や状況が見えていない印象につながります。
避けたいのは、
- 相手の考え方そのものを評価する言い方。
- 自分の正しさを前提にした断定的な言い方。
この二つです。
ビフォーアフターで見る言い換えパターン
ここでは、よくあるNG例を、印象を保ちながら意見を伝える形に書き換えてみます。
- 主語を変える。
- クッション言葉を足す。
- 事実や意図を短く添える。
この三つを意識すると、トーンがやわらぎます。
例えば、次のようなパターンです。
「違う」と断定する代わりに、相手の視点を認めつつ、別の見方として出しています。
理由を問い詰めるのではなく、意図を知りたいという姿勢に変えています。
過去の経緯は触れつつも、責めるトーンを抑え、次にどうしてほしいかを明確にしています。
案そのものを否定するのではなく、条件の問題として整理しています。
このように、
- 主語を自分側に寄せる。
- クッションを足す。
- 具体的な理由や条件を添える。
これだけで、同じ意見でも届き方はかなり変わるでしょう。
メールと口頭でニュアンスが変わるポイント
同じフレーズでも、メールと口頭では受け取られ方が変わります。
文字だけのメールでは、表情や声のトーンが補えません。
そのため、短い一文が冷たく見えやすくなります。
例えば、
それは違います
だけをチャットで送ると、強い否定として受け取られる可能性が高くなります。
口頭で、笑顔や柔らかい声で伝えれば、そこまできつく感じない場面でも、文字だけだと印象が変わります。
メールやチャットでは、次のように少し情報を足した方が安全です。
- 一点だけ、自分の理解と異なる部分がありました
- この点については、別の考え方もありそうだと感じました
また、メールでは、
- 背景の一文
- 感謝の一文
- 今後どうしたいか
を短く添えることで、否定から「調整の提案」に変わります。
口頭の場合は、逆に言葉を足し過ぎると冗長になり、相手が構えやすくなります。
表情と声のトーンがあるため、言葉はシンプルでも問題ない場面が多くなります。
そのため、口頭では、
さっきの案、とても面白いと思いました。そのうえで、一点だけ気になったところがあります
といったように、短いフレーズを組み合わせて、間を取りながら伝えるとよいでしょう。
媒体によって、
- 文字だけで完結するのか
- 表情や声が補ってくれるのか
この違いを意識して、一文にどこまで情報を載せるかを調整すると、誤解を減らしやすくなります。
まとめとチェックリスト
三つのコツのおさらい
ここまで見てきたのは、相手を否定せずに意見を伝えるための三つの軸でした。
最後に、日常で思い出しやすいように、もう一度コンパクトに整理しておきます。
一つ目は、前提と目的から伝えることです。
いきなり意見や修正点を出すのではなく、まず何の話で、なぜその話をしているのかを共有する。
相手の頭の中に、同じ土台をつくってから意見を出すイメージを持つとよいでしょう。
二つ目は、行動レベルまで具体化することです。
賛成か反対かだけで終わらせず、誰がいつまでに何をどう変えるのかを言葉にする。
次の一歩がはっきりしていると、意見の違いがそのまま進め方の調整につながりやすくなります。
三つ目は、私メッセージとクッション言葉を使うことです。
あなたは間違っているという評価ではなく、私はこう感じましたと自分を主語にする。
そのうえで、一点だけ気になったことがありますなどのクッションを添えると、相手も耳を傾けやすくなるはずです。
この三つをセットで意識すると、同じ内容でも、関係を保ちながら意見を伝えやすくなるでしょう。
意見を伝える前に確認したいチェックリスト
実際の場面では、ゆっくり言葉を選ぶ余裕がないことも多いと思います。
そこで、話す前・送る前に、短時間で確認できるチェックポイントをまとめます。
すべてを完璧に守るよりも、まず一つ二つから意識してみると負担が少ないでしょう。
- 相手の前提や状況を、こちらなりに整理してから話しているか
- 何の話か、目的を最初に一文で伝えられているか
- 事実と自分の解釈を分けて説明できているか
- 否定ではなく、違いとして伝える言い方になっているか
- あなたは よりも 私は を主語にした表現を選べているか
- 一点だけ気になったことがあります など、クッションになる一言を添えられているか
- 最後に、相手が質問や確認をしやすい余地を残しているか
会議前やメール送信前に、気になる項目だけでも目を通してみると、言い方の癖に気づきやすくなります。
ことのは先生よりひとこと

意見の違いがあること自体は、悪いことではないと思います。
一度で完璧に伝えようとしすぎず、少しずつすり合わせていく姿勢を持てると、会話はずっと楽になります。
お互いの違いを調整していく時間も、関係を育てる大切なプロセスとして扱ってみてください。


