伝えたつもりが伝わらないときの話し方 誤解を防ぐ3つのコツ
「ちゃんと言ったはずなのに、伝わっていなかった」。
仕事をしていると、そんな戸惑いを感じる場面が少なくないと思います。
指示も、お願いも、説明もしたつもりなのに、相手の行動や受け取り方が想像と違う。
そのたびに、自分の伝え方が悪かったのかと不安になることもあるでしょう。
ただ、多くの場合「能力が足りない」わけではありません。
前提の共有、言葉の具体さ、最後の確認。
この三つのどこかが少しだけずれていることがほとんどです。
この記事では、そのずれを小さくするための考え方と話し方を整理していきます。
この記事で分かること
- 「伝えたつもり」が「伝わらない」ときに起きているズレの正体
- 誤解を防ぐための三つのコツ(前提・具体化・確認)の押さえ方
- 上司部下・同僚・オンライン会議など場面別の伝え方の工夫
- 避けたい言い方と、すぐに言い換えられる一文のビフォーアフター
- 今日から使える「伝える前に見直すためのチェックリスト」
伝えたつもりが伝わらないときに起きていること

仕事の場面では、「ちゃんと言ったつもりだったのに…」という戸惑いが意外と多いと思います。
締め切りを伝えたのに守られていない。
会議でお願いしたはずのタスクが進んでいない。
依頼メールを送ったのに、相手は「情報共有だと思っていた」と受け取っていた。
このとき、こちらの頭の中には「背景」「経緯」「意図」がそろっています。
一方、相手に届いているのは、そのごく一部だけということがよくあります。
つまり、「自分の中の完成したイメージ」と「相手に届いた断片的な情報」のギャップが、そのまま行動の違いになっている状態です。
「言った内容」と「相手が受け取った内容」は、本来イコールではありません。
話し手の前提や、言い方のあいまいさ、聞き手側の状況や解釈。
こうした要素が重なり、少しずつズレが広がっていきます。
ここでは、まず「どんなときにズレが起きやすいのか」「どの視点で誤解が生まれているのか」を整理していきます。
このあと紹介する三つのコツを理解するための土台になる部分だと考えてみてください。
よくあるシチュエーションとズレのパターン
「ちゃんと指示したはずだ」と感じているのに、実際には動いてもらえていない。
この背景には、シーンごとの典型的なズレのパターンがあります。
たとえば、上司のつもりでは「明日までに必ずやってほしい指示」なのに、部下には「いずれ対応すればよい相談レベル」に聞こえているケースがあります。
上司は、話し始める前からプロジェクト全体のスケジュールを把握している状態です。
一方の部下は、その一部しか知らず、「他の業務と同列のお願いの一つ」と受け止めてしまうことがあります。
同僚への「軽いお願い」でもズレは起こります。
「時間があるときに、あの資料だけ見ておいてもらえる?」と伝えた側は、
「今週中には対応してくれるだろう」と期待しているかもしれません。
受け取った側は、「余裕があれば見ればいいもの」と理解して、後回しにしてしまうことがあります。
どちらの例にも共通しているのは、「自分の頭の中にある前提や経緯」が、言葉としてはほとんど説明されていない点です。
話し手の中では「当然共有されているはず」の情報でも、相手は知らない、もしくは細部を覚えていないことがあります。
この前提のズレが、伝えたつもりと伝わった内容のギャップを生みます。
誤解が生まれる三つの視点(前提・言葉・確認)
誤解が生まれるポイントを分解すると、次の三つの視点で整理できます。
- 前提が共有されていない
- 言葉があいまいで、情報が足りない
- 伝わったかどうかの確認をしていない
前提が共有されていないと、話し手と聞き手の「スタート地点」が違うまま会話が進みます。
話し手は「前回の会議で共有した内容」を前提に話しているつもりでも、相手はその会議に出ていなかった、もしくは細部を覚えていないこともあるでしょう。
言葉があいまい、情報が足りない場合も、解釈の幅が広くなります。
「例の件」「いい感じに」「早めにお願い」といった表現は、相手によって受け取り方が変わりやすい表現です。
誰が、いつまでに、どのレベルまで、を補うだけで、誤解の余地は一気に減っていきます。
そして意外と見落とされがちなのが、「伝わったかどうかの確認」です。
「はい」「分かりました」という反応だけで、理解度まで確認したつもりになってしまうことがあります。
要点を簡単に言い換えてもらったり、メールなら認識に相違がないか一言添えたりするだけで、後のズレをかなり防げるでしょう。
この三つの視点(前提・言葉・確認)は、そのままこの後の「三つのコツ」に対応していきます。
次の章では、まず「前提と目的から先に共有する」という最初のコツから具体的に見ていきます。
誤解を生む三つの原因を整理する
伝えたつもりなのに伝わらないとき、多くの人が最初に考えるのは「自分の説明が下手なのでは」という不安だと思います。
ただ、冷静に見ていくと、個人の能力というより「どこが抜けているか」「どこがあいまいか」という構造の問題になっていることがほとんどです。
誤解が生まれる場面を眺めると、次の三つに集約しやすいです。
背景と目的が伝わっていない。
使っている言葉があいまいで、情報が足りない。
最後に、伝わったかどうかを確認しないまま終わっている。
この三つがそろうと、相手は「何となく理解した気がする」状態で会話を終えます。
その結果として、行動に移す段階でズレが表面化します。
逆に言えば、この三つを意識して整えていけば、劇的に話し方を変えなくても誤解はかなり減らせるはずです。
ここからは、それぞれの原因を少しだけ丁寧に見ていきます。
このあと紹介する三つのコツの土台として、まずは「どこで誤解が生まれているのか」を一度整理しておきましょう。
原因1 背景と目的が抜け落ちている
一番多いのが、指示や依頼だけ先に伝えてしまうパターンです。
自分の中では、プロジェクト全体の状況や、今日中に進めたい理由が整理されています。
ただ、その背景や目的を相手に共有する前に、作業内容だけを口にしてしまうことがよくあります。
例えば、金曜までにこの資料をまとめておいてください、という一言だけを伝えるケースです。
話し手は、来週の提案に向けた重要な準備だと理解しています。
一方で相手は、他の仕事と同じレベルのタスクの一つとして受け止めてしまうかもしれません。
なぜ今このタイミングなのか。
なぜこの人にお願いしているのか。
何のための作業なのか。
このあたりの情報が抜けると、相手は優先順位をつけにくくなります。
結果として、別の仕事を先に進めてしまい、こちらから見ると「伝えたのに動いてくれていない」という状況が生まれます。
背景と目的を一言で添える習慣があるかどうか。
ここが、誤解を減らすうえでの最初の分かれ目になるでしょう。
原因2 曖昧な表現と主語抜け
二つ目の原因は、言葉そのもののあいまいさです。
その件、例の資料、いい感じに、早めに、など。
日常会話ではよく使う表現ですが、業務の指示や依頼にそのまま乗せると、解釈の幅が広がりすぎることがあります。
また、誰が、いつまでに、どのレベルまで、という情報が抜け落ちると、相手ごとに受け取り方が大きく変わります。
忙しい人ほど、自分の前提で補って理解しようとするため、ズレが大きくなりやすいでしょう。
例えば、資料は例の方向性でいい感じに直しておいて、という伝え方です。
話し手の頭の中には、修正したいポイントが具体的に浮かんでいます。
しかし、言葉として出ているのは「例の方向性」「いい感じ」というあいまいなラベルだけです。
相手が以前の打ち合わせを鮮明に覚えていれば通じるかもしれません。
ただ、少し時間が経っていると、どこまで踏み込んで直せばよいのか分からなくなります。
主語や期限、完成イメージを短くでも言い切る。
この基本が欠けると、「伝えた」と「伝わった」の差は一気に広がります。
原因3 確認をしないまま終わらせてしまう
三つ目の原因は、伝えたあとをそのまま流してしまうことです。
大丈夫そうだよね、分かったよね、といった一言で会話を締めてしまう場面は少なくありません。
相手がうなずいていたから安心した。
はいと返事をしたから理解しているはずだと判断した。
このように、相手の短い反応だけを「理解のサイン」とみなしてしまうと、後でズレが表面化します。
実際には、相手も完全に理解しているとは限りません。
その場の空気を優先して、とりあえずはいと答えていることもあります。
疑問があっても、時間を取ってしまうことを気にして質問しづらい場合もあるでしょう。
メールやチャットでも同じです。
こちらが長い説明を書き、最後によろしくお願いしますと締める。
相手から了解しましたの一言だけが返ってくる。
この状態でお互いに「伝わった」と思い込むと、細部の認識違いに気づきにくくなります。
ここで必要なのは、相手を疑うことではありません。
確認という一手間を、会話やメッセージの中に組み込む習慣です。
このあと紹介するコツでは、要約してもらう質問の仕方や、メールでの認識確認フレーズを具体的に見ていきます。
コツ1 前提と目的から先に共有する話し方

伝え方で最初に意識したいのは、「どこから話し始めるか」という順番です。
多くの場合、いきなり依頼や指示から入ってしまいます。
たとえば「この資料、今日中にお願いできますか」のような始まり方です。
聞く側の頭の中には、別の仕事や予定がすでに詰まっています。
そこに突然タスクだけが投げ込まれると、「なぜ今なのか」「どの程度優先すべきか」が分かりません。
結果として、こちらの想定とは違う優先順位で扱われることもあるでしょう。
そこで意識したいのが、背景→目的→依頼の順番です。
まず、何の話なのかを一文で示す。
次に、なぜそれが必要なのかという目的を簡単に添える。
最後に、相手にお願いしたい具体的な行動を伝える。
この流れにするだけで、相手の頭の中に枠組みができます。
同じ内容でも、
「とにかくやってほしいこと」
から
「状況をふまえた上で、自分に求められていること」
に変わるイメージです。
ここからは、背景と目的を一文で添えるコツと、相手の疑問を先回りする前置きの例を見ていきます。
背景と目的を一文で添える習慣をつける
前提と目的を共有するのに、長い説明は必要ありません。
最初の一言に、短く情報をまとめて添えるだけで十分なことが多いです。
例えば、次のような始め方があります。
例
- 来月のキャンペーン準備の件で、資料作成のお願いがあります。
- 今期の振り返り資料について、追加でご相談したいことがあります。
最初の一文で「何の話か」が分かると、相手は頭の中でフォルダ分けがしやすくなります。
キャンペーンの話なのか、日常業務の話なのか。
単なる雑談ではなく、資料作成や相談がメインなのか。
こうした大まかな位置づけが見えた状態で、次の話に集中できるでしょう。
さらに、目的を少しだけ添えると、優先順位が伝わりやすくなります。
例
来月のキャンペーン準備の件で、企画会議に向けた資料作成のお願いがあります。
ここまで言うと、「会議に間に合わせるための準備なのだ」と相手は理解できます。
同じ資料作成でも、背景と目的が見えた方が「いつまでにやるべきか」「どこまで仕上げるべきか」を判断しやすくなります。
話し始める前に、
これは何の話か
何のために必要か
この二つを一文にまとめてから口に出す習慣を持つと、前提のズレはかなり小さくなるはずです。
相手の疑問を先回りするフレーズ例
前提と目的に加えて、相手が抱きやすい疑問を先に一言でふさいでおくと、会話がよりスムーズになります。
多くの人が気にするのは、「なぜ自分なのか」と「なぜ今なのか」です。
ここを先に示せると、納得感が変わってきます。
例えば、会議の前に特定のメンバーへ依頼するとき。
例
来月のキャンペーン準備の件で、資料作成をお願いしたいです。前回の提案内容を一番把握しているのが〇〇さんだからです。
「なぜ自分なのか」を一言添えるだけで、指名された理由が伝わります。
単なる割り振りではなく、期待を込めた依頼として受け取りやすくなるでしょう。
タイミングについても同じです。
例
来月のキャンペーン準備の件で、今週中にたたき台の資料作成をお願いしたいです。来週の部内会議で方向性を固めたいと考えています。
なぜ今週中なのかが分かると、相手は自分のスケジュールの中で位置づけしやすくなります。
会議・メール・チャットごとに、使いやすい前置きも少しずつ違います。
会議での始め方の例
本題に入る前に、今回の議題の背景を簡単に共有させてください。
メールでの書き出しの例
来月のキャンペーン準備に関するご相談でご連絡いたしました。
チャットでの一言の例
来月のキャンペーン資料の件で、少しご相談させてください。
どれも長い説明ではありませんが、相手の「これは何の話か」「なぜ自分なのか」という疑問を先に受け止める役割があります。
こうした前置きを一言添えるだけでも、その後の依頼や説明の受け取られ方は変わっていくでしょう。
コツ2 相手の行動が変わるレベルまで具体化する
伝えたつもりなのに動いてもらえない。
この背景には「相手が何をすればいいのかまで言えていない」という問題がよくあります。
話し手の頭の中では、やってほしい作業のイメージが最後まで見えています。
ただ、口に出しているのは途中まで。
相手から見ると、「で、結局自分は何をどこまでやればいいのか」が見えないままになります。
ここで意識したいのは、伝えるを「相手がどんな行動を取るかまで描写する」に変えることです。
すべての5W1Hを盛り込む必要はありません。
誰が
いつまでに
何をどこまで
この三つが分かれば、相手は動きやすくなります。
この章では、まず「誰がいつまでに何をするのか」を言い切る型を整理します。
次に、あいまいな言い方を具体文に変えるビフォーアフターをいくつか見ていきます。
誰がいつまでに何をするのかを言い切る
指示や依頼を書くときは、「主語+期限+具体的な作業」をそろえる意識を持つと伝わり方が変わります。
短い文でもかまいません。
相手がそのまま自分のタスク欄に書き写せるレベルを目指すイメージです。
例えば、次のような文です。
金曜の午前中までに、A社向けの企画書を1案、下書きレベルでまとめてください。
主語は明示していませんが、「あなたにお願いしている」という状況が明らかな会話なら問題ありません。
誰が、いつまでに、何をどこまで、が一文の中で整理されています。
メールやチャットの場合、もう一歩ていねいに書くとこうなります。
〇〇さんに、A社向けの企画書1案をお願いしたいです。金曜の午前中までに、下書きレベルで構いませんのでご準備いただけますか。
最初の一文で「誰に何を頼みたいか」を示し、
二文目で「いつまでに」「どの程度の完成度か」を追加しています。
毎回ここまで書くのは大変に感じるかもしれません。
ただ、要素としては三つだけです。
誰が担当か
いつまでに必要か
どのレベルまでやるのか
この三つを文の中に入れたかどうか。
送信前に一度だけ確認する習慣をつけると、誤解はかなり減っていくはずです。
曖昧な言い方を具体文に変えるビフォーアフター
次は、よくあるあいまいな言い方を、具体的な文に変える例を見ていきます。
どれも現場で使われやすい表現です。
まずは「適宜お願いします」。
受け取った側から見ると、何を基準に動けばよいのか分かりにくいでしょう。
具体的にすると、こう変えられます。
何をするのかと、どこまでやるのかが見える形になっています。
次に「例の資料まとめておいて」。
これだと、どの資料で、どの程度までまとめるのかが人によって変わってしまいます。
何のメモか
どんな形式にするか
いつまでに必要か
が文の中に入っています。
チャットで短く伝えたい場合でも、要素は同じです。
どの資料の、どの部分か。
なぜ今直す必要があるのか。
この二点を足すだけでも、相手の行動はかなり変わってくるでしょう。
一気に完璧を目指す必要はありません。
まずは、
その件、適宜、例の資料、といった言葉を書いたときに
「誰が」「いつまでに」「何をどこまで」を一文追加する。
この小さな修正から始めてみてください。
コツ3 伝わったかを一緒に確認する習慣をつくる
どれだけ丁寧に話しても、「最後のひと手間」がないと誤解は残ります。
そのひと手間が、相手と一緒に内容を確認するプロセスです。
多くの会話や指示は、一方通行になりがちです。
話した側は「ここまで説明したから大丈夫だろう」と感じる。
聞いた側は「たぶんこういう意味だろう」と自分の前提で補う。
この両方が重なると、ズレが起きても気づきにくくなってしまいます。
ここで大切なのは、「確認=相手を疑うこと」ではないという捉え方です。
お互いの負担を減らすために、誤解を前もって減らしておく。
そのための共同作業だと考えた方が、現場ではうまく回りやすいでしょう。
口頭でもメールでも、要点を一度整理してもらう、確認の一言を添える。
この小さな工夫だけで、後のやり直しや行き違いがかなり変わってきます。
ここでは、要約してもらう・確認質問を使う場面と、メールやチャットでのフレーズ例を見ていきます。
要約してもらう・確認質問を使う
口頭でのやり取りでは、「説明して終わり」にしがちです。
そこで意識したいのが、最後に相手の口から一度内容を出してもらうことです。
例えば、次のような一言があります。
ここまでの内容を簡単に整理するとどうなりますか。
少し形式ばった場なら、
今お伝えした内容について、要点を一度まとめていただけますか。
といった聞き方もあります。
要約してもらうことで、相手の理解の中身がその場で見えます。
ズレがあれば、その場で修正できますし、相手自身の整理にも役立ちます。
確認の質問の仕方も工夫できます。
よくある「不明点はどこかありますか」は、相手にとって少し答えづらい場合があります。
分からないと言いづらい空気があると、「特にありません」と返すしかないこともあるでしょう。
そこで、質問の形を少し変えます。
- 迷いそうな点はどこかありそうですか。
- 進め方で不安なところはありますか。
このように「迷い」や「不安」を軸にした聞き方にすると、相手は本音を出しやすくなります。
完全に分かっていなくても、「ここが少し心配です」と言いやすくなるでしょう。
ポイントは、
- 要約してもらう場面を一度つくる
- 確認質問の言い方を「間違い探し」ではなく「一緒に整理する」方向にする
この二つを意識することだと思います。
メール・チャットでの確認フレーズ例
メールやチャットでは、相手の表情が見えません。
その分、文面の一言で「確認の姿勢」を示しておくと安心感が変わります。
例えば、内容の認識をそろえたいときは次のようなフレーズがあります。
- 認識に相違がないかご確認いただけますと幸いです。
- 上記内容で問題なければ、その旨ご返信いただけますと助かります。
どちらも、相手の理解を尊重しつつ、確認をお願いする言い回しです。
一方的に「こういう理解で進めます」と言い切るよりも、ずっと柔らかい印象になります。
チャットのようにテンポが早い場では、もう少し簡潔な表現も使えます。
- 上記の内容で進めてよいか、念のためご確認いただけますか。
- この方向性で問題なければ、スタンプで大丈夫です。
後半の一文で「返信のハードル」を下げておくと、相手もリアクションしやすくなります。
重要度が高い話題なら、「一言でよいので返信をお願いする」形に変えるとよいでしょう。
いずれにしても、
- こちらの理解を一度言葉にする
- 相手に確認の機会を渡す
この二つがそろっているかどうかがポイントです。
文末に一文足すだけの工夫ですが、これを習慣にできると、「伝えたつもり」のまま進んでしまうケースはかなり減っていくはずです。
場面別 伝わっていないを減らす会話例

ここまで見てきた三つのコツは、どの場面にも共通して使える考え方です。
とはいえ、実際に使う言い方は「誰と話すか」「どんな場面か」で少しずつ変わります。
上司と部下のやり取り。
同僚同士の依頼や共有。
オンライン会議やチャットでのコミュニケーション。
場面ごとに、よくある行き違いと、そのまま使える言い回しの例を見ていきます。
抽象的なコツを、日々の会話に落とし込むイメージで読んでみてください。
上司と部下の指示・報連相の場面
上司から部下への指示は、前提の差が大きく出やすい場面です。
上司はプロジェクト全体を見た上で話している一方、部下は目の前のタスクで手一杯ということも多いでしょう。
例えば、次のような指示です。
これだと、部下から見ると「他の仕事との優先順位」「どこまでやればよいか」が見えません。
具体的に言い換えると、こうなります。
背景(A社の問い合わせ)
期限(金曜午前中)
やること(返信案3パターン)
確認のタイミング(明日のミーティング)
が一文ずつ入っています。
部下から上司への報告でも、「何を知りたいか」を先に押さえると伝わり方が変わります。
上司からすると、「何がどこまで終わっているのか」が分かりません。
最初に「どの案件か」。
次に「どこまで進んでいるか」。
最後に「今後の予定や相談点」。
この順で話すと、報連相の内容が相手の頭にすっと入っていきます。
同僚同士の依頼・情報共有の場面
同僚同士のやり取りは、距離が近い分だけあいまいな言葉が増えやすい場面です。
遠慮して言い切れなかったり、逆にラフになりすぎたりすることもあるでしょう。
よくあるのが、「時間あるときにお願い」という言い方です。
この一文だと、
- いつまでに
- どこまで
をやってほしいのかが見えません。
具体的にすると、こうなります。
期限(今日の17時)
範囲(誤字だけ)
がはっきりします。
相手は、自分のスケジュールの中で優先順位をつけやすくなるでしょう。
チーム内で誤解が起きやすい依頼文も、少し手を入れるだけで変わります。
何の件か
どのような形式で
いつまでに
を一度言葉にする。
同僚相手だからこそ、この一手間で「伝わっていない」を減らせる場面が多くなります。
オンライン会議・チャットでの注意点
オンライン会議やチャットは、対面よりも誤解が起きやすい場面です。
カメラオフで表情が見えない。
音声のみで細かなニュアンスが伝わりづらい。
チャットでは、短い文だけが行き交う。
こうした環境では、特に「最後のまとめ」が重要になります。
決定事項・担当・期限を、一度はっきりと言い切るようにするとよいでしょう。
オンライン会議の終盤なら、次のような一言です。
例
最後に、決定事項を整理します。A社提案書の修正は〇〇さんが担当。期限は来週水曜の午前中。次回の確認は木曜の定例ミーティングとします。
これを口頭で一度伝えた上で、議事録やチャットにも同じ内容を書いておくと安心感が違ってきます。
チャットだけでやり取りするときも、要点を一度まとめておくと誤解が減ります。
例
今回の件については、こちらの認識は以下の通りです。
・資料修正は〇〇さんが担当
・締め切りは5月10日の17時
・修正箇所はスライド3〜5枚目のみ
この内容で問題なければ、スタンプか一言だけでもリアクションをもらえると助かります。
誰が、いつまでに、何をするのか。
オンラインほど、この三つを「文字で残す」ことが大切になります。
そのうえで、リアクションをもらう一文を添える。
これだけでも、「伝えたつもり」のまま会議が終わってしまう状況はかなり減っていくはずです。
避けたい言い方と誤解を招くパターン
「ちゃんと言ったはずなのに」という場面には、よく使われる決まり文句が隠れていることが多いです。
便利でつい口にしてしまう一言ほど、「伝えたつもり度」が高く、実際には相手に情報が届いていないことがあります。
また、誤解が起きたあとに使いやすい言い方の中には、相手を責めているように聞こえるものもあります。
内容としては正しくても、言い方によっては関係がぎくしゃくしやすいでしょう。
ここでは、
- 分かっている前提で話してしまう一言
- 相手を責めるように聞こえやすい言い方
この二つを取り上げて、なぜ誤解を招きやすいのかを整理していきます。
分かっている前提で話してしまう一言
忙しいときほど、「説明を省きたい」という気持ちが働きます。
その結果として出てきやすいのが、次のような言い回しです。
さっき言った通りでお願いします。
この前と同じ感じでやっておいてください。
話し手の頭の中では、直前の会話や、前回のやり取りが鮮明に残っています。
ただ、相手にとっては「さっき」が別の作業で上書きされていることもあります。
この前と同じといっても、「どの部分を同じにするのか」「どこからどこまでを指しているのか」は、人によってイメージが違うでしょう。
問題なのは、「相手も同じ情報を持っているはず」という前提を積み上げてしまう点です。
理解度を確かめずに話を進めると、ズレがあっても気づきにくくなります。
こうした一言を使いたくなったときは、せめて要点を一文だけ足す意識を持つとよいでしょう。
例
さっきお伝えしたA社の見積もりの件ですが、あの内容で正式版を作成してください。
先月のキャンペーン資料と同じ構成で、今月分を作成してもらえますか。
前提を指す言葉(さっき、この前)だけで終わらせず、どの話かをもう一度言葉にする。
それだけでも、誤解はかなり減っていくはずです。
相手を責めるように聞こえる言い方
行き違いが起きたあとに、つい使ってしまいやすい言い方もあります。
前にもお伝えしましたが。
何度も同じことを言っていますが。
事実として「過去にも伝えている」ということを示したい場面はあると思います。
ただ、このまま口にすると、相手を責めているように聞こえやすい表現です。
受け取る側は、「分かっていない自分を責められている」と感じて、内容より感情に意識が向いてしまうでしょう。
必要な場面で使う場合でも、言い方を少し工夫すると印象が変わります。
例えば、こういった言い回しに置き換えられます。
- 先日もお伝えした内容になりますが、あらためて整理いたします。
- 以前ご案内した内容と重なりますが、重要な点ですので再度共有いたします。
過去に伝えた事実には触れつつ、「責める」より「共有し直す」姿勢を前面に出す形です。
相手のミスを指摘したいときでも、まずは事実を冷静に確認し、そのうえで次にどう進めるかを一緒に考える流れを意識した方が、関係への影響は小さくなるでしょう。
感情が高ぶっているときほど、言葉は強くなりやすいです。
そんなときこそ、
- 相手がすでに分かっている前提で話していないか
- 責めるトーンになっていないか
この二点を一度だけ振り返るクセをつけておくと、「伝わっていない」だけでなく「関係が悪くなる」ことも防ぎやすくなります。
まとめとチェックリスト
ここまで見てきた内容を振り返ると、「伝えたつもり」を減らすポイントは複雑ではありません。
前提と目的を共有すること。
相手の行動レベルまで具体化すること。
そして、伝わったかを一緒に確認すること。
この三つを意識できれば、説明のうまさよりも「行き違いの少なさ」が確実に変わっていきます。
完璧な話し方を目指すより、少しずつ誤解を減らすことを意識する方が、現実的で続けやすいはずです。
日常の会話やメールでも、いきなり全部を変える必要はありません。
重要な依頼や、トラブルが起きやすい場面から、三つのコツを一つずつ試してみるイメージで十分だと思います。
三つのコツのおさらい
あらためて、この記事で扱った三つのコツを整理します。
一つ目は、前提と目的から伝えることです。
「何の話か」「なぜ必要か」を最初の一文で示す。
そのうえで、具体的な依頼や説明に入る流れにすると、相手の頭の中に枠組みができます。
二つ目は、相手の行動が変わるレベルまで具体化すること。
誰が、いつまでに、何をどこまで行うのか。
この三つを一文の中で言い切るだけで、相手はタスクとして認識しやすくなるでしょう。
三つ目は、伝わったかを確認することです。
要約をお願いする。
迷いそうな点がないか一言たずねる。
メールなら、認識に相違がないか確認をお願いする一文を添える。
どれも特別なテクニックではありません。
ただ、この三つを意識して加えるだけで、会話やメールの「伝わり方」が少しずつ変わっていくはずです。
今日から使える伝え方チェックリスト
話す前、送る前に、次の項目を簡単に確認してみてください。
すべてを毎回満たす必要はありません。
大事な場面ほど、いくつかを意識的に押さえられているかを見るイメージです。
- この話が「何の件か」「何のためか」を最初に一文で書いたか
- 誰が、いつまでに、何をどこまで行うかが文の中で分かるか
- あいまいな言葉(その件、例の資料、適宜など)を具体的な表現に置き換えたか
- 相手の迷いを確認できる一言(迷いそうな点はないか、認識に相違がないか)を入れたか
- メールや議事録では、決定事項・担当・期限を最後にまとめて書いたか
すべてにチェックが付かなくても、意識して見直すだけで伝え方は少しずつ変わります。
まずは「重要な依頼メールだけ」「上司への報告だけ」のように、場面を絞って試してみると続けやすいでしょう。
ことのは先生よりひとこと

一度で完璧に伝えることより、少しずつ誤解を減らす工夫の方が現実的です。
背景を一文足すこと、具体化すること、確認の一言を添えること。
その三つを意識できれば、伝え方は着実に良い方向へ変わっていくはずです。


