取引先クレーム対応の敬語フレーズ集|信頼を守る言い方とメール例文

取引先クレーム対応の敬語フレーズ集|信頼を守る言い方とメール例文 敬語・ビジネス言葉

取引先クレーム対応の敬語フレーズ集|信頼を守る言い方とメール例文

取引先からのクレーム対応は、できれば避けたい場面だと感じる人が多いでしょう。
一方で、対応の仕方しだいで「信頼が下がる場面」にも「信頼を取り戻す場面」にも変わるでしょう。

その鍵になるのが、状況に合った敬語表現と、言い方の順番です。
何をどこまで伝えるか。
どのような言葉で謝罪し、どこから再発防止や補償の話に入るか。
このあたりが整理できていると、慌てずに対応しやすくなるでしょう。

この記事では、単なる謝罪文の例ではなく、
クレームの種類ごとの考え方や、電話・対面・メールでの言い方の違いまで含めて整理します。
そのうえで、信頼を守るための敬語フレーズをシーン別にまとめていきます。

この記事で分かること

  • 取引先のクレーム対応で「信頼を落とす言い方」と「信頼を守る言い方」の違い
  • 電話・対面での第一声や、感情が高ぶっている相手へのクッション言葉の使い方
  • 謝罪・再発防止・補償を伝えるときのNG表現と、丁寧な言い換えフレーズ
  • クレーム対応メールの基本構成と、誤解を生みにくい書き方のコツ
  • どこまで説明すべきか、メールだけで済ませてよいかなど、現場で迷いやすいポイントへの考え方

自社の事情や業界によって最適な対応は少しずつ異なるでしょう。
その前提を踏まえつつ、どの職場でも応用しやすい「言い方の軸」を一緒に整理していきます。


  1. 取引先のクレーム対応で「言い方」が信頼を左右する理由
    1. クレーム対応は「信頼を失う場面」ではなく「信頼を取り戻す場面」
    2. 言葉選び一つで「誠実」にも「言い訳」にも聞こえる理由
    3. 「その場しのぎの謝罪」から「関係を守る対応」へ視点を変える
  2. 取引先クレームの種類と状況整理|まず何を把握すべきか
    1. クレームの種類|事実ミス/品質トラブル/対応への不満
    2. 自社の責任範囲と「まだ確定していない事実」を分けて考える
    3. 社内共有と一次対応の役割分担を整理しておく
  3. 電話・対面での第一声|取引先を落ち着かせる言い方の基本
    1. 電話を受けたときの第一声フレーズ
    2. 訪問・対面でお詫びに伺うときの言い方
    3. 怒っている相手の感情を受け止めるクッション言葉
  4. 事実確認・ヒアリングをするときの敬語フレーズ
    1. 相手の話をさえぎらず「詳しく伺う」ための言い方
    2. 確認したい点を整理して聞き返すフレーズ
    3. その場で断定しないための保留フレーズ
  5. 謝罪・再発防止・補償を伝える敬語表現(NG/OKテーブル付き)
    1. 誤解されやすい謝罪フレーズのNG/OK
    2. 再発防止策を伝えるときの言い方
    3. 金銭・納期など補償に触れるときの慎重な言い方
    4. NG/OKフレーズ比較テーブル
  6. メール・文書でクレーム対応をするときの書き方と敬語
    1. クレーム対応メールの基本構成|件名・書き出し・本文・結び
    2. メールならではの敬語・言い回しの注意点
    3. テンプレに頼りすぎないための「一文一情報」のコツ
  7. 取引先クレーム対応に関するよくある質問(FAQ)
    1. Q. どこまで詳しく原因を説明すべきでしょうか?
    2. Q. 取引先が感情的な状態のとき、何度も同じ説明を求められたらどうすればよいでしょうか?
    3. Q. 自社だけの責任ではないクレームの場合も、全面的に謝るべきでしょうか?
    4. Q. クレーム対応をメールだけで完結させてもよいでしょうか?
  8. まとめ|取引先の信頼を守るクレーム対応の考え方
    1. クレーム対応は「守り」ではなく「信頼を積み増すチャンス」
    2. 敬語表現は「誠意」と「冷静さ」を支える道具
    3. テンプレ頼みではなく、自社と自分の言葉に落とし込む
    4. ことのは先生よりひとこと

取引先のクレーム対応で「言い方」が信頼を左右する理由

取引先からクレームを受けたとき
多くの人は「まず謝らないといけない」と考えるでしょう。

もちろん謝罪は大切です。
ただし「何を、どの順番で、どんな言葉で伝えるか」によって
相手が受け取る印象は大きく変わるでしょう。

同じ内容でも
言い方次第で「誠実に向き合ってくれた」と感じてもらえる場合もあれば
「言い訳をされている」「軽く扱われている」と感じさせてしまう場合もあります。

この章では
クレーム対応を「信頼を失う場面」とだけ捉えず
「信頼を回復し、場合によっては高める場面」として考え直していきます。

そのうえで
なぜ言葉選びがそこまで重要になるのか。
そしてこの記事全体でどのような流れを押さえていくのか。
その土台となる考え方を整理していきます。


クレーム対応は「信頼を失う場面」ではなく「信頼を取り戻す場面」

クレームが発生したと聞くと
「もう信頼は落ちてしまった」と感じる人が多いでしょう。

たしかに、問題が起きた時点で
相手の不信感や不満は高まっているはずです。

しかし、そこでの対応次第では
「最後まで責任を持って対応してくれた会社」として
むしろ信頼が強まることも少なくないでしょう。

たとえば、次のような印象を相手に持ってもらえるかどうかです。

  • 問題を真剣に受け止めている。
  • 自分たちの非を認めたうえで、きちんと説明してくれる。
  • 今後の対策や再発防止を具体的に考えている。

こうした印象は
「どの敬語を使ったか」だけではなく
「どのタイミングで、どのような順番で、どう伝えたか」から生まれるでしょう。

ここで、敬語表現の役割を整理しておきます。

敬語は、単に「かしこまった言い方」にするためのものではありません。

  • 相手への敬意を示すためのもの。
  • 感情的になりやすい場面でも、冷静なやりとりに戻すためのもの。
  • 会社としての誠意や、プロとしての姿勢を形にするためのもの。

このような「土台」として機能するのが敬語でしょう。

感情が高ぶりやすいクレーム対応の場面だからこそ
落ち着いた敬語表現が、信頼を取り戻すための支えになります。


言葉選び一つで「誠実」にも「言い訳」にも聞こえる理由

同じ事実を伝えているつもりでも
言葉の選び方によって、相手の受け取り方は大きく変わるでしょう。

たとえば、原因を説明するときです。

  • 「担当者がミスしたようです。」
  • 「弊社担当者の確認不足により、このような事態を招いてしまいました。」

どちらも事実としては「担当者のミス」です。
それでも、後者のほうが責任を自分側に引き受けている印象になるでしょう。

逆に、次のような言い方は
相手をいっそう不快にさせやすいでしょう。

  • 「たまたまこうなってしまいまして。」
  • 「こちらとしても想定外でした。」
  • 「通常は問題ないのですが、今回に限って運が悪かったようです。」

言っている本人は
「事情を説明しているつもり」の場合が多いはずです。

しかし相手から見ると

  • 責任をはっきりさせていない。
  • 自分たちの側の問題を認めていない。
  • 「運が悪かった」で済まされている。

と受け取られる可能性が高いでしょう。

また、謝罪の一言でもニュアンスは変わります。

  • 「ご迷惑をおかけしました。」
  • 「このたびは、弊社の不手際によりご迷惑をおかけいたしました。」

前者は場面によっては十分な表現ですが
クレーム対応のような重大な場面では
後者のように「何について謝っているのか」を含めた方が誠実に聞こえるでしょう。

このように、

  • 主語をどこに置くか。
  • 原因をどう表現するか。
  • どこまで具体的に説明するか。

といった細かな選択が
「誠実に向き合っている」と感じてもらえるか
「言い訳をしている」と感じさせてしまうか
その境目になりやすいでしょう。


「その場しのぎの謝罪」から「関係を守る対応」へ視点を変える

クレーム対応というと
「とにかく急いで謝らないと」と考えがちでしょう。

しかし、謝罪だけを繰り返しても
相手の不安や不信感が消えるとは限りません。

むしろ

  • 何が起きたのか。
  • 原因はどこにあったのか。
  • 今後どう対策するのか。

こうした点が見えてこないと
「形だけの謝罪」「その場しのぎ」と受け取られる可能性が高いでしょう。

そこで、本記事では
クレーム対応を次のような流れで考えていきます。

  1. 事実確認
    何が起きたのか。
    どの範囲まで分かっているのか。
    相手の話を丁寧に聞き、状況を整理する段階です。
  2. 謝罪
    相手にどのような迷惑や不安を与えたのか。
    自社としてどの点をお詫びするのか。
    誠意が伝わる言い方を選ぶ段階です。
  3. 再発防止
    今後、同じことを繰り返さないために何をするのか。
    どこまで具体的に伝えられるのか。
    現実的な対策を言葉にして説明する段階です。
  4. 社内調整・フォロー
    必要な部署や担当者と情報を共有する。
    補償やスケジュール変更など、社内での決定事項を相手に伝える。
    対応後も状況を確認し続ける段階です。

この記事では、これらの流れに沿って
電話・対面・メールそれぞれの言い方や
NG表現と丁寧な言い換え例を整理していきます。

「とりあえず謝る」から一歩進んで
「関係を守り、できれば信頼を高めるための対応」をイメージしながら
次の章以降を読み進めていただけるとよいでしょう。


取引先クレームの種類と状況整理|まず何を把握すべきか

クレームが入ると
「とにかく早く謝らないといけない」と感じやすいでしょう。

ただ、やみくもに謝るだけでは
本当に説明すべき点が伝わらず、あとで話がこじれるリスクも高まるでしょう。

最初にやるべきことは
「何が起きているのか」を整理することです。
ここでは、敬語表現に入る前の「頭の中の整理」の手順をまとめていきます。


クレームの種類|事実ミス/品質トラブル/対応への不満

取引先のクレームといっても、内容はさまざまでしょう。
ざっくりとでも種類を分けておくと、説明や謝罪の焦点を合わせやすくなります。

代表的には、次の三つに分けられるでしょう。

  1. 事実ミス・事務的な間違い
  2. 品質トラブル・不具合
  3. 対応への不満・コミュニケーションの問題

順番に整理していきます。

1. 事実ミス・事務的な間違い

  • 納期の伝達ミス
  • 金額・数量の入力ミス
  • 書類の送付漏れ、添付漏れ

このタイプでは
「何が間違っていたのか」「正しい情報は何か」が最初に求められるポイントでしょう。

まず、誤っていた事実を明確にし
そのうえで「影響の範囲」「今後の修正方法」をセットで説明することが重要です。

2. 品質トラブル・不具合

  • 商品の不良
  • システム障害
  • サービス品質のばらつき

品質に関わるクレームでは
「安全性」「再発の有無」「ほかに影響が出ていないか」が相手の大きな関心事でしょう。

この場合は
原因がすぐに特定できないことも多いため
「現時点で分かっていること」と「調査が必要なこと」を切り分けて伝える姿勢が大切です。

3. 対応への不満・コミュニケーションの問題

  • 担当者の言い方がきつく感じられた
  • 連絡が遅い、約束した時間に連絡がない
  • 質問への答えがあいまいだった

このタイプでは
「結果」だけでなく「対応プロセス」への不満が中心になるでしょう。

相手は
「軽く扱われたのではないか」
「大事にされていないのではないか」
といった感情を抱きやすくなります。

そのため
事実説明に入る前に「感情を受け止める一言」が特に重要になる種類だと言えるでしょう。

どのパターンであっても

  • どの種類のクレームなのか
  • 複数の要素が絡んでいないか

を最初に整理しておくことで
「何から説明するべきか」「どの部分を一番ていねいに謝るべきか」が見えやすくなるでしょう。


自社の責任範囲と「まだ確定していない事実」を分けて考える

クレーム対応では
責任の所在をはっきりさせたい気持ちが双方にあるでしょう。

だからといって
確認前に「当社のミスです」「先方の問題です」と断定してしまうと
あとで説明が覆り、かえって信頼を損ねる可能性が高いでしょう。

ここで意識したいのは

  • 現時点で判明している事実
  • まだ確定していない事実
  • 自社の責任範囲として認められる部分

この三つを分けて考えることです。

具体的には、心の中で次のように整理するとよいでしょう。

  • 今、確実に言えるのはどこまでか。
  • どこから先は「調査が必要」と正直に言うべきか。
  • 自社でコントロールできる範囲はどこまでか。

この整理があいまいだと
「多分こうだと思います」「おそらく当社側の問題です」といった
根拠の弱い表現を口にしてしまいがちでしょう。

敬語表現の前提として
「安易に約束しない」「決めつけない」姿勢がとても大切です。

たとえば

  • 対応期限を具体的に言い切ってしまう
  • 補償内容をその場で口約束してしまう
    といった言い方は、あとで調整しづらくなる代表例でしょう。

一方で
「何も言えません」「分かりません」を繰り返すだけでは
誠意が伝わりにくいでしょう。

そのバランスを取るために

  • 「現時点で判明している範囲では〜です」
  • 「ここから先は社内で確認のうえ、◯日◯時までにご報告いたします」

というように
「今言えること」と「いつまでに何を伝えるか」を分けて示す意識が必要になるでしょう。


社内共有と一次対応の役割分担を整理しておく

クレーム対応では
「誰が何を話すか」が曖昧だと、言い回しや説明内容もぶれやすくなるでしょう。

営業担当が対応するのか。
カスタマーサポートが一次対応するのか。
技術担当が説明に同席するのか。

このあたりの役割分担が決まっていないと

  • 人によって説明が食い違う
  • ある人は謝罪中心、ある人は言い訳中心になる
    といったちぐはぐな対応が起きやすくなるでしょう。

特に一次対応者には
次の二つの役割があると考えると整理しやすいでしょう。

  1. 事実をできるだけ正確に聞き取る役割
  2. 相手の感情を受け止める役割

1. 事実をできるだけ正確に聞き取る役割

  • いつ
  • どの場面で
  • どの商品・サービスで
  • どのような問題が起きたのか

このあたりを、感情を否定せずに整理して聞き取ることが求められるでしょう。

ここでの聞き取りが曖昧だと
あとから社内で検討するときにも、前提がぶれてしまいます。

2. 相手の感情を受け止める役割

一次対応では
「正しい説明」をする前に
「まず不快な思いをさせてしまったことを受け止める」ことが重要でしょう。

誰が一次対応をするのか。
どこから先を上長や責任者に引き継ぐのか。

この線引きが社内で共有されていれば
各場面で使うべき言い方や、敬語のトーンもそろえやすくなるでしょう。

逆に、役割分担が曖昧なままだと

  • 同じ説明を何度も繰り返させてしまう
  • 担当者によって温度感が違う
    といった形で、取引先の不満が積み重なりやすくなります。

クレーム対応の言い方を考える前に
社内での「誰が謝るか」「誰が説明するか」を整理しておくことが
結果的に、言葉選びの迷いを減らす近道になるでしょう。


電話・対面での第一声|取引先を落ち着かせる言い方の基本

クレーム対応の場面では
最初の一言で、その後の会話のしやすさが大きく変わるでしょう。

ここで謝り方を誤ると
その後どれだけ丁寧に説明しても、相手の気持ちがなかなかほぐれません。

逆に、第一声で「きちんと向き合う姿勢」が伝われば
相手の怒りがすぐには収まらなくても
話し合いの土台は作りやすくなるでしょう。

この章では
電話と対面のそれぞれで、最初に何をどう言うかを整理します。
あわせて、怒っている相手の感情を受け止めるためのクッション言葉も見ていきます。


電話を受けたときの第一声フレーズ

取引先からのクレームの多くは
まず電話から始まることが多いでしょう。

このときのポイントは

  • すぐに謝罪の意思を示すこと
  • 言い訳に入らず、話を聞く流れを作ること
    の二つです。

基本となる第一声の例です。

  • 「このたびはご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません。」
  • 「ご迷惑をおかけしており、誠に申し訳ございません。」

名乗りと組み合わせると、次のような流れになるでしょう。

  1. 「いつもお世話になっております。◯◯社の△△でございます。」
  2. 「このたびはご迷惑をおかけしており、誠に申し訳ございません。」

ここで注意したいのは
すぐに「事情の説明」や「言い訳」に入らないことです。

たとえば、次のような言い方は避けたいでしょう。

  • 「担当者が不在でして……。」
  • 「システムトラブルで、私どもも困っておりまして……。」

相手からすると
自分の不満より「会社側の事情」が優先されているように感じやすくなります。

謝罪の一言を伝えたあとは
相手に話してもらう流れを作るとよいでしょう。

  • 「差し支えなければ、状況を詳しくお聞かせいただけますでしょうか。」
  • 「どのような点でご不便をおかけしているか、教えていただけますでしょうか。」

このように
「教えてください」「お聞かせください」とお願いする形にすると
相手は「話を聞く姿勢がある」と感じやすいでしょう。

第一声で

  • 謝罪の意思
  • 話を聞く姿勢
    の二つを示せているかどうかを、意識しておくとよいでしょう。

訪問・対面でお詫びに伺うときの言い方

対面でお詫びに伺う場合は
電話以上に「一つひとつの言葉」と「順番」が大切になるでしょう。

基本的な流れは、次のようなイメージです。

  1. 入室時のあいさつと名乗り
  2. 相手の時間を取ってもらったことへのお礼
  3. あらためての謝罪

具体的には、次のように組み立てると自然でしょう。

  • 「本日はお時間を頂戴し、誠にありがとうございます。」
  • 「◯◯社の△△でございます。」
  • 「このたびは、弊社の不手際によりご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。」

この順番にすることで
「時間を取ってもらったことへの感謝」と
「こちらが非を認めている姿勢」が、落ち着いた形で伝わるでしょう。

いきなり深く頭を下げて謝るよりも

  • 名乗る
  • 時間へのお礼を述べる
  • きちんとした言葉で謝る
    という三段階で進めたほうが
    相手も状況を受け入れやすい場合が多いでしょう。

着席前に一度短く謝り
本題に入る前に、もう一度あらためて謝罪を伝える構成もよく使われます。

  • 「まずは、あらためましてお詫び申し上げます。」
  • 「本件につきまして、経緯と今後の対応についてご説明させていただきます。」

こうした一言で
「誠意を持って対応に来ている」と感じてもらいやすくなるでしょう。


怒っている相手の感情を受け止めるクッション言葉

クレームの場面では
相手の声が強くなったり
厳しい言葉が出てきたりすることもあるでしょう。

このとき
すぐに事実の説明に入りたくなるかもしれません。

しかし、感情を無視して説明だけを続けると
「言い訳ばかりしている」と感じさせてしまうでしょう。

そこで役に立つのが
相手の感情を受け止めるクッション言葉です。

代表的な例は、次のようなものです。

  • 「ご不快なお気持ちにさせてしまい、大変申し訳ございません。」
  • 「そのようなお気持ちになられたのは、もっともだと感じております。」
  • 「ご不信を招く結果となり、誠に申し訳ございません。」

これらの言葉には、次のような効果があるでしょう。

  • 相手の感情を「間違い」とは扱わない。
  • ちゃんと気持ちを理解しようとしていると伝わる。
  • 相手が「分かってもらえた」と感じれば、その後の説明を聞く準備が整いやすい。

クッション言葉を使うときのポイントは
「しかし」「ただ」などの逆接で、すぐに打ち消さないことです。

避けたい例を挙げます。

「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。ただ、当社としても精一杯やっておりまして……。」

このように続けてしまうと
前半の謝罪よりも、後半の言い訳のほうが強く印象に残るでしょう。

クッション言葉を使うときは
まずは一度、きちんと「点」で言い切ることが大切です。

「ご不快なお気持ちにさせてしまい、大変申し訳ございません。」

そのあとで区切りをつけてから
事実や経緯の説明に入るとよいでしょう。

「そのうえで、現時点で把握している状況についてご説明させていただきます。」

このような流れを意識すると
「感情を受け止めたうえで説明している」という印象を持ってもらいやすくなるでしょう。

電話でも対面でも
第一声とクッション言葉の組み合わせが、クレーム対応の土台になる意識を持っておくと安心でしょう。


事実確認・ヒアリングをするときの敬語フレーズ

クレーム対応では
「謝ること」と「状況を聞き取ること」を同時に進める必要があるでしょう。

謝罪だけを重ねても
事実が整理されなければ、根本的な解決にはつながりません。

一方で、確認ばかりしていると
「責任から逃げている」「言い訳を探している」と受け取られるおそれもあるでしょう。

ここでは
相手の話をきちんと引き出しながら
失礼にならずに事実確認を進める言い方を整理していきます。


相手の話をさえぎらず「詳しく伺う」ための言い方

クレームの場面では
相手はすでに不満や不安を抱えた状態で話し始めるでしょう。

このときに大事なのは
途中でさえぎらずに、まず全体像を聞き切ることです。

そのための入り口として
次のような言い方が使いやすいでしょう。

  • 「差し支えなければ、状況をもう少し詳しくお聞かせいただけますでしょうか。」
  • 「どのような経緯でこのような事態になったのか、教えていただけますでしょうか。」
  • 「発生した順番に沿って、時系列でお伺いしてもよろしいでしょうか。」

ここで意識したいのは
「なぜそうなったのですか」と、原因を直接問い詰めるような聞き方を避けることです。

「なぜですか」という問いかけは
責められているように感じさせやすいでしょう。

代わりに
「どのような経緯でしたか」
「どのタイミングで起こりましたか」
といった、流れを確認する表現にすると
落ち着いて説明してもらいやすくなるでしょう。

また、相手が話している途中で
すぐに「それは当社ではなく……」と反論を挟んでしまうと
「話を聞いてもらえていない」と感じさせてしまいます。

一度最後まで聞き切ること。
そのうえで

  • 「確認させていただきたい点がございます。」
  • 「いくつか整理のためにお伺いしてもよろしいでしょうか。」

と区切りを入れてから追加の質問に入ると
相手も話しやすくなるでしょう。


確認したい点を整理して聞き返すフレーズ

相手の話を聞き終えたら
こちらの理解がずれていないか、整理して聞き返す必要があるでしょう。

このときも、ただ質問を連発するのではなく
「整理のため」であることを一言添えると、受け取られ方がやわらぐでしょう。

使いやすい言い方は、次のような形です。

  • 「確認のために、二点だけお伺いしてもよろしいでしょうか。」
  • 「整理のため、三つに分けて確認させていただいてもよろしいでしょうか。」
  • 「私の理解が間違っていないか確認させてください。」

このように前置きしてから

  • 「まず一つ目が、◯日の納品分についての不具合で間違いございませんでしょうか。」
  • 「二つ目が、その影響で御社の工程が一日遅れたという認識でよろしいでしょうか。」

というように
項目を分けて質問するとよいでしょう。

ポイントは、次の二つです。

  • 質問の数を最初に示すこと。
  • 「こちらの理解を合わせたい」という姿勢を言葉にすること。

この二つを押さえると
相手も「責められている」のではなく
「きちんと状況を把握しようとしてくれている」と感じやすくなるでしょう。

逆に避けたいのは
相手の説明をさえぎりながら、思いついた順に質問を投げてしまうことです。

こうした聞き方は
「何度も同じことを説明させられている」と感じさせやすく
不満を強める原因になりやすいでしょう。

一度聞き取った内容を自分の中で整理し
見出しのように区切ってから質問する意識を持つと
丁寧な印象がぐっと高まるでしょう。


その場で断定しないための保留フレーズ

事実確認の段階では
その場で答えを出せないことも多いでしょう。

原因の特定には時間がかかることもあります。
補償や対応内容は社内の決裁が必要な場合もあるでしょう。

それでも
「分かりません」「答えられません」だけだと
不誠実な印象を与えてしまいます。

そこで役に立つのが
その場で断定しないための「保留フレーズ」です。

たとえば次のような言い方が挙げられるでしょう。

  • 「現時点では、はっきりお答えを申し上げることが難しく存じます。」
  • 「現時点ではお答えを控えさせていただきたく存じますが、社内で確認のうえ、改めてご連絡申し上げます。」
  • 「社内での確認が必要な内容でございますので、◯日◯時までに一度ご報告させていただければと存じます。」

ここで大切なのは、次の二点です。

  1. 「今は言えない理由」を簡潔に示すこと。
  2. 「いつ・どのような形で再度連絡するか」をセットで伝えること。

理由をまったく示さないまま保留にすると
「隠しているのではないか」と疑われやすいでしょう。

一方で、安易に期限や内容を約束しすぎると
あとで守れなくなったときに、さらに信頼を落とすことになりかねません。

そのため

  • 「◯日中に原因が必ず特定できる」と断言しない。
  • 「必ず全額補償いたします」など、権限を超えた約束はしない。

といった線引きが必要になるでしょう。

保留フレーズは
「今言える範囲」と「これから調べてお伝えする範囲」を分けるための道具です。

きちんと使えば
安易な約束を避けながらも
「きちんと持ち帰って検討している」という誠意を伝えられるでしょう。

事実確認とヒアリングの段階で
このバランスを意識しておくことが
後の説明や謝罪をスムーズにする土台になるはずです。


謝罪・再発防止・補償を伝える敬語表現(NG/OKテーブル付き)

事実を整理して、相手の話をしっかり伺ったあとには
「何をどのように謝るか」「今後どうするか」「補償をどう考えるか」を言葉にする必要があるでしょう。

ここでの言い方しだいで
「きちんと向き合ってくれている」という印象にも
「形だけ謝っているだけだ」という印象にも変わるでしょう。

この章では
謝罪
再発防止
補償

の三つを軸に、NG表現と丁寧な言い換えを整理していきます。

最後に、全体を見渡せるように
シーン別のNG/OKを表でまとめるでしょう。


誤解されやすい謝罪フレーズのNG/OK

クレーム対応で最初に口をついて出やすいのが
「とりあえずの謝罪」でしょう。

しかし、次のような言い方は
相手の不信感を強めやすい表現です。

  • 「ご迷惑をおかけしましたと思います。」
  • 「とりあえずお詫び申し上げます。」
  • 「ご不便をおかけしたみたいで、すみません。」

これらには、いくつかの共通点があるでしょう。

  • 責任の所在がはっきりしていない。
  • 何について謝っているのかがぼやけている。
  • 自分ごとではなく「他人事」のような響きになっている。

謝罪の基本は
「何について」「誰の責任として」「どうお詫びするか」を明確にすることです。

たとえば、次のような言い換えが考えられるでしょう。

  • 「このたびは、弊社の納期管理の不手際によりご迷惑をおかけいたしました。」
  • 「弊社の検品体制に不備があり、このような不良品をお届けしてしまい、誠に申し訳ございません。」

ここでは、次の点を意識しています。

  • 「弊社の」「当社の」など、主語を自分側に置く。
  • 「納期管理の不手際」「検品体制の不備」など、原因や領域を示す。
  • 「ご迷惑をおかけいたしました」「誠に申し訳ございません」で、きちんと謝罪を言い切る。

また、謝罪の中に言い訳を混ぜないことも大切です。

  • 「担当者もがんばっていたのですが」
  • 「通常は問題ないのですが」

といった言葉を続けてしまうと
謝罪よりも言い訳のほうが強く残る可能性が高いでしょう。

一度、謝罪の文は「点」で言い切る。
そのうえで、必要な範囲の説明に進む。
この順番を意識すると、誠実な印象が伝わりやすくなるでしょう。


再発防止策を伝えるときの言い方

謝罪のあとには
「今後どうするか」を具体的に伝える必要があるでしょう。

ここでよく出てくるのが、次のような表現です。

  • 「今後は十分気をつけます。」
  • 「二度とこのようなことがないようにいたします。」

一見、前向きな言い方に見えるでしょう。
しかし、相手からすると
「具体的に何をするのか」が見えにくい表現です。

また、「二度とない」と言い切ってしまうと
万が一再発したときに、信頼を大きく損なうリスクもあるでしょう。

再発防止を伝えるときは
次の二点を意識するとよいでしょう。

  • 実際に行う行動を、できるだけ具体的に言う。
  • 言い切りすぎず、現実的な範囲で約束する。

たとえば、次のような言い方が考えられます。

  • 「今回の原因となったチェック工程について、手順書を見直し、ダブルチェックを必須とする運用に変更いたします。」
  • 「出荷前の検品項目に◯◯の確認を追加し、担当者への再教育を実施いたします。」
  • 「今後同様の案件については、必ず部署内での事前レビューを行うルールに改めます。」

このように
何を見直し
どこにチェックを増やし
誰がどのように対応するのか
まで言葉にすると、相手もイメージしやすいでしょう。

一方で、できない約束は避けるべきです。

  • 「今後一切このようなことは起こさせません。」
  • 「必ず完璧に防ぎます。」

といった表現は
耳ざわりは良いかもしれません。
しかし、現実とのギャップが生じたときに
「口だけだった」と受け取られやすいでしょう。

現実的な範囲でできることを明確にし
その内容を分かりやすい日本語に落とし込む。
それが再発防止を伝える敬語表現の基本になるでしょう。


金銭・納期など補償に触れるときの慎重な言い方

クレーム対応では
金銭的な補償や、納期の調整といった話題に触れざるをえない場面もあるでしょう。

ここで場当たり的な言い方をしてしまうと
あとで社内調整ができず、さらに問題が大きくなるおそれがあります。

たとえば、次のような表現は避けたほうがよいでしょう。

  • 「今回は値引きしますから、それでご勘弁ください。」
  • 「とりあえず無償にしておきます。」
  • 「こちらで全部負担しますので、大丈夫です。」

これらは、いずれも次のようなリスクを含んでいるでしょう。

  • 社内の決裁を経ていない可能性が高い。
  • 条件があいまいで、後から「言った」「言わない」の争いになりやすい。
  • 「とりあえず」などの言い回しが、軽く聞こえやすい。

補償の話をするときは
まず「社内での検討が必要であること」を伝えたうえで
検討のプロセスと連絡のタイミングを示すとよいでしょう。

たとえば、次のような言い方です。

  • 「補償の内容につきましては、社内での検討が必要となりますので、いったん持ち帰らせていただければと存じます。」
  • 「可能な補償の範囲について、関係部署と協議のうえ、◯日までにあらためてご提案申し上げます。」
  • 「御社に生じた影響の範囲を踏まえたうえで、どのような形でお詫びすべきか社内で検討させていただきたく存じます。」

権限を超えた約束はしない。
一方で、「何も決めません」と突き放す言い方はしない。

この中間を取る表現として
「社内で検討のうえ」「可能な範囲で」といった言葉が役立つでしょう。


NG/OKフレーズ比較テーブル

ここまでの内容を
いくつかのシーンごとに、NG/OKでまとめます。

下記のテーブルは、あくまで考え方の目安でしょう。
実際には、自社の状況や業界に合わせて調整するとよいでしょう。

シーンNGな言い方丁寧な言い換え例ポイント
納期遅延の第一報「とりあえずお詫びします。今回は遅れてしまいました。」「このたびは、弊社の納期管理の不手際により納品が遅れ、ご迷惑をおかけいたしました。」何が原因で何に迷惑をかけたのかを明示し、責任の所在をはっきりさせることが大切でしょう。
品質不良の説明と再発防止「今後は十分気をつけますので、今回だけはご容赦ください。」「今回の不良品につきましては、検品工程の確認不足が原因であると判明いたしました。検品手順を見直し、ダブルチェックを必須とする運用に変更いたします。」気をつけるだけでなく、具体的な見直し内容を言葉にすることで、再発防止の意志が伝わるでしょう。
補償内容の初回回答「今回は値引きしますから、それでお願いします。」「補償の内容につきましては、御社に生じた影響の範囲を踏まえ、社内で検討のうえ、◯日までにあらためてご提案申し上げます。」その場で決めず、検討プロセスと回答期限を示すことで、不誠実な印象を避けられるでしょう。

このように
同じ場面でも、言葉を少し変えるだけで
伝わり方や信頼感は大きく変わるはずです。

自社の実情に合わせて
使いやすい表現に言い換えながら
「責任」「具体策」「現実的な約束」の三つを意識するとよいでしょう。


メール・文書でクレーム対応をするときの書き方と敬語

クレーム対応では
電話や対面でお詫びした内容を、あとからメールや文書で正式に残す場面が多いでしょう。

メールは記録に残ります。
その分、言葉選びや構成の「雑さ」が、そのまま会社の姿勢として残るでしょう。

ここでは
クレーム対応メールの基本構成。
メールならではの敬語の注意点。
一文一情報で書くコツ。
この三つを整理していきます。


クレーム対応メールの基本構成|件名・書き出し・本文・結び

クレーム対応のメールは、自由に書いてしまうと読み手が迷いやすいでしょう。
先に「型」を持っておき、その中で内容を調整していくほうが書きやすくなります。

全体の流れは、次のように考えると整理しやすいでしょう。

  1. 件名
  2. 書き出し(挨拶+お詫び)
  3. 本文(事実・原因・対応・今後)
  4. 結び

順番に見ていきます。

1. 件名

件名では「何のメールか」が一目で分かることが大切でしょう。

たとえば、次のような形です。

  • 「【お詫び】◯◯不具合発生の件」
  • 「◯◯不具合に関するご報告とお詫び」
  • 「◯◯納期遅延の件につきまして(お詫び)」

「お詫び」「ご報告」「ご連絡」などの言葉を入れると
相手は内容の重さや方向性を予測しやすくなるでしょう。

2. 書き出し(挨拶+お詫び)

本文では、最初にいつもの挨拶。
その直後に、今回の件に対するお詫びを置くとよいでしょう。

例としては、次のような流れです。

  • 「いつもお世話になっております。◯◯社の△△でございます。」
  • 「このたびは、弊社◯◯サービスの不具合によりご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。」

挨拶だけで数行使ってしまうと
肝心のお詫びが遅れてしまいます。
クレーム対応では、早めに「何について謝っているか」を明示するほうがよいでしょう。

3. 本文(事実→原因→対応→今後)

本文の構成は、次の順番を基本形とすると分かりやすいでしょう。

  • お詫び
  • 事実(何が起きたか)
  • 原因(分かっている範囲で)
  • 対応(今回どう対処したか)
  • 今後(再発防止策や連絡予定)

たとえば、簡略化すると次のような流れになります。

  • 「◯月◯日に御社へ納品いたしました◯◯につきまして、不具合が発生していることを確認いたしました。」
  • 「現時点での原因は、弊社倉庫での保管温度管理に問題があったためと判明しております。」
  • 「本件につきましては、代替品の手配と、該当ロットの回収を進めております。」
  • 「再発防止策として、◯◯のチェック項目を追加し、倉庫担当者への教育を実施いたします。」

一度この流れを意識すると
どの案件でも、書く順番に迷いにくくなるでしょう。

4. 結び

最後に、今後の連絡や問い合わせ窓口について触れます。

  • 「本件につきまして、ご不明な点やご不安な点がございましたら、何なりとお申し付けください。」
  • 「このたびは、多大なるご迷惑をおかけいたしましたこと、あらためて深くお詫び申し上げます。」

結びの一言で
「これで終わり」ではなく
「今後も丁寧に対応を続ける」姿勢を示せるとよいでしょう。


メールならではの敬語・言い回しの注意点

メールや文書は、電話や対面よりも「形」として残る媒体でしょう。
そのため、敬語のレベルは一段階ていねいにしておくほうが安心です。

たとえば、電話では

「すみません。」

と伝えていた場面でも
メールでは

  • 「誠に申し訳ございません。」
  • 「深くお詫び申し上げます。」

のような表現にしておくとよいでしょう。

一方で、メール特有の「軽く見えやすい表現」もあります。

たとえば、

  • 「取り急ぎお詫びまで。」
  • 「◯◯の件、大変失礼いたしました。」

といった一文だけで終わるメールは
クレーム対応としては情報が不足しがちでしょう。

「取り急ぎ」はビジネスメールでよく使われます。
しかし、クレームの場面では

「とりあえず形だけ送ってきた」

と受け取られる可能性もあるでしょう。

どうしても一次報告として先にお詫びだけ送りたい場合は
次のように「後続の説明がある」ことを明記するとよいでしょう。

  • 「まずはメールにてお詫び申し上げます。」
  • 「詳細につきましては、◯日◯時までにあらためてご報告申し上げます。」

また、メールでは感情が伝わりにくいぶん
言葉が強く感じられやすいでしょう。

  • 「〜と考えております。」
  • 「〜と認識しております。」

といった柔らかめの表現を使いながら
断定しすぎない書き方を意識すると、角が立ちにくくなるでしょう。


テンプレに頼りすぎないための「一文一情報」のコツ

クレーム対応のメールでは
テンプレートを使う場面も多いでしょう。

ただ、テンプレをそのまま貼り付けるだけでは

  • 実際の状況と説明がずれている
  • 読み手が知りたい情報が抜けている
    といったことが起こりやすいでしょう。

そこで意識したいのが「一文一情報」です。

一つの文に、あれもこれも詰め込みすぎると
読み手は途中で意味を追うのをやめてしまう可能性があるでしょう。

たとえば、次のような書き方です。

「このたびは、弊社担当者の確認不足により御社に多大なるご迷惑をおかけし、納期にも遅れが生じ、ご信頼を損ねる結果となりましたことを深くお詫び申し上げます。」

内容は間違っていないかもしれません。
しかし、一文が長く、どこが重要なのか分かりにくいでしょう。

これを「一文一情報」で区切ると、次のようになります。

  • 「このたびは、弊社担当者の確認不足によりご迷惑をおかけいたしました。」
  • 「その結果、納期にも遅れが生じてしまいました。」
  • 「御社のご信頼を損ねる結果となりましたことを、深くお詫び申し上げます。」

一文ごとに伝える内容を一つに絞ると
読み手は「どこに謝っているのか」「何が起きたのか」を追いやすくなるでしょう。

テンプレートを使う場合も
次のようなプロセスを通すと、質が上がりやすいでしょう。

  1. ひな形をもとに、必要な要素(お詫び・事実・原因・対応・今後)を書き出す。
  2. 一文一情報になるように文を分割する。
  3. 自分の言葉に置き換えたほうがよい箇所を調整する。

これを意識すると
「どこにでもあるテンプレの文章」ではなく
自社と相手との関係にあった文章になりやすいでしょう。

文字として残るクレーム対応メールだからこそ
構成と敬語と一文一情報の三つを押さえておくことが
結果的に、会社の信頼を守ることにつながるはずです。


取引先クレーム対応に関するよくある質問(FAQ)

クレーム対応の方針や言い方は、会社や業界によって少しずつ違うでしょう。
ここでは、多くの人が現場で迷いやすいポイントを、Q&A形式で整理していきます。


Q. どこまで詳しく原因を説明すべきでしょうか?

原因説明は「詳しければ詳しいほど良い」とも限らないでしょう。
一方で、あまりに情報が少ないと「隠しているのでは」と疑われやすくなるでしょう。

目安としては、次の三つに分けて考えると整理しやすいです。

  • 取引先に直接関係し、影響がある事実
  • 安全性や再発防止に関わる重要な情報
  • 社内事情や機密に関わるため、詳しくは話しづらい情報

このうち、前の二つはできる範囲で説明した方が信頼につながるでしょう。
最後の一つは、すべてを開示せずとも構いませんが、まったく触れないと不信感につながりやすいです。

そのため、たとえば次のような言い方が使えるでしょう。

  • 「現時点で判明している範囲では、◯◯が直接の原因と考えております。」
  • 「社内の詳細な体制につきましてはお伝えできない部分もございますが、不備があったことは事実であり、その点については弊社の責任と認識しております。」

ここで大事なのは、次の二点でしょう。

  • 「現時点で判明している範囲では」と前置きし、断定しすぎない。
  • 説明できない部分がある場合も、「まったく触れない」のではなく、可能な範囲で方向性だけは伝える。

全部を説明しようとして言いにくい情報まで出してしまうと、別のリスクが生まれるでしょう。
一方で、原因の説明をあいまいにしすぎると、再発防止の説得力も弱まるでしょう。

「取引先が判断に必要な情報かどうか」
「安全性や品質に直接関係するかどうか」
この二つを基準にして、どこまで話すかを決めるとよいでしょう。


Q. 取引先が感情的な状態のとき、何度も同じ説明を求められたらどうすればよいでしょうか?

感情が高ぶっている相手に対しては、一度説明した内容でも、何度も聞かれることがあるでしょう。
そのとき、「先ほども申し上げましたが」といった言い方をすると、冷たく聞こえやすいです。

同じ説明を繰り返す場合は、まず「受け止め」と「姿勢」を言葉にするとよいでしょう。

  • 「ご不安なお気持ちにさせてしまい、申し訳ございません。」
  • 「改めて、経緯をご説明させていただきます。」

このように一度クッションを入れてから、短く整理し直して説明するほうがよいでしょう。

説明の際は、次の点を意識すると伝わりやすくなります。

  • 一度目よりも、さらに簡潔に、要点を絞って話す。
  • 結論→理由→補足の順番で話す。
  • 同じ言葉だけでなく、言い回しや順番を少し変えてみる。

たとえば、次のような形でしょう。

  • 「改めてお伝えしますと、結論としては◯◯が原因でございます。」
  • 「そのうえで、発生までの流れを三点に分けてご説明いたします。」

感情が高ぶっているときは
「内容が理解できていない」ことよりも
「理解されていないと感じている」ことが多いでしょう。

そのため

  • 回数ではなく「丁寧に向き合っている姿勢」
  • 何度聞かれても、落ち着いて整理し直す態度
    が、信頼回復には大きく影響するでしょう。

Q. 自社だけの責任ではないクレームの場合も、全面的に謝るべきでしょうか?

取引先とのやり取りでは、相手側の運用や他社のシステムなどが絡み、
「完全に自社だけの責任ではない」ケースも少なくないでしょう。

その場合でも
「こちらには一切問題はありません」と突き放すような言い方は、関係を悪くするだけでしょう。

一方で、すべてを自社の責任として引き受けてしまうと、
今後の取引条件や社内調整に無理が生じる可能性もあるでしょう。

このような場面では
「自社側の責任として認める部分」と
「相手側や外部要因が関わっている部分」を分けて伝えるとよいでしょう。

たとえば、次のような言い方が考えられます。

  • 「今回の件につきましては、弊社の案内不足により誤解を生じさせてしまった点がございます。」
  • 「一方で、◯◯の設定につきましては御社側の運用も関係している部分があり、その点も含めて今後の進め方を一緒に検討させていただければと存じます。」

あるいは、共同責任に近いケースでは、次のような表現もあるでしょう。

「弊社の不手際に加え、運用ルールの共有が不十分であったことも今回の一因と認識しております。」

ここで大切なのは

  • 自社側の反省点をきちんと口にすること
  • そのうえで、事実関係と役割分担を冷静に整理すること

の二つでしょう。

すべてを相手のせいにする必要はありません。
しかし、関係維持を優先するなら、自社側の改善点を先に示した方が信頼にはつながりやすいでしょう。


Q. クレーム対応をメールだけで完結させてもよいでしょうか?

クレーム対応をメールだけで済ませるかどうかは、次の観点で判断するとよいでしょう。

  • 内容の重さ(安全性・品質・法令などへの影響があるか)
  • 金額や取引規模の大きさ
  • 取引先との関係性(重要顧客かどうか)
  • 相手の感情の高まり具合

たとえば、次のような整理が考えられます。

  • 影響が軽微で、相手も冷静に状況を確認したいだけであれば、メール中心で完結する場合もあるでしょう。
  • 安全性や重大なトラブルが関わる場合、メールのみでは不十分で、電話や訪問を組み合わせる方が自然でしょう。
  • 長年取引のある重要な顧客であれば、金額が小さくても直接の説明を求められることが多いでしょう。

実務では
「メールだけ」か「対面だけ」かという二択ではなく、組み合わせで考えるとよいでしょう。

たとえば、次のような流れです。

  • まず電話でお詫びと概略を伝える。
  • そのうえで、詳細と再発防止策をメールで文書化して送る。

あるいは

  • 先にメールで経緯と現時点の対応方針を共有する。
  • そのあと、電話やオンライン会議で質問を受ける時間を設ける。

このように組み合わせることで

  • 電話や対面で「誠意」と「姿勢」を伝える。
  • メールで「事実」と「方針」を正確に残す。

という役割分担ができるでしょう。

「どちらか一方」ではなく
相手と内容に応じて「どう組み合わせるか」を考えることが
結果として、双方にとって納得感のある対応につながるはずです。


まとめ|取引先の信頼を守るクレーム対応の考え方

クレーム対応は、できれば避けたい場面に感じられるでしょう。
ただ、対応の仕方次第で「信頼を失う出来事」にも「信頼を積み増す出来事」にも変わるはずです。

ここでは、この記事全体のポイントを振り返りながら
敬語表現を「守りの道具」で終わらせない考え方を整理しておきます。


クレーム対応は「守り」ではなく「信頼を積み増すチャンス」

クレームは、相手があえて時間と労力を使って「不満」を伝えてくれている状態でしょう。
何も言わずに離れていくよりも、関係を立て直す余地がまだ残っているとも言えるでしょう。

この記事で扱ったポイントを、あらためて整理します。

  • クレーム対応は「信頼を失う場面」だけでなく「信頼を取り戻す場面」と捉える。
  • 謝罪だけで終わらせず「事実整理」「原因説明」「再発防止」「補償」の流れで考える。
  • 電話・対面・メールそれぞれで、第一声と構成を意識して言葉を選ぶ。
  • その場しのぎの言い訳ではなく、「今言えること」と「これから確認すること」を分けて伝える。
  • NG表現を避け、相手の立場から見て納得しやすい敬語とクッション言葉を選ぶ。

これらを意識するだけでも
クレーム対応の場面で「何から話せばよいか」が見えやすくなるでしょう。


敬語表現は「誠意」と「冷静さ」を支える道具

敬語やクッション言葉は
ただ形式的に使うためのものではないでしょう。

感情が揺れやすい場面でも、落ち着いて話すための「支え」になる道具です。

  • 「ご不快なお気持ちにさせてしまい、申し訳ございません。」
  • 「現時点で判明している範囲では、◯◯であると認識しております。」

このような言い方があることで
担当者自身も、感情的なやりとりに巻き込まれにくくなるでしょう。

敬語表現が整っていると、次のような効果も期待できるでしょう。

  • 相手の怒りや不信感を、少しずつ落ち着かせやすくなる。
  • 社内で情報共有するときにも、事実と対応方針を整理しやすくなる。
  • 個人ではなく「会社としてどのように向き合っているか」を示しやすくなる。

敬語は「かたくるしいルール」ではなく
自分と相手の両方を守るための道具として捉え直すと、使い方も変わってくるでしょう。


テンプレ頼みではなく、自社と自分の言葉に落とし込む

クレーム対応には、社内で用意されたテンプレートやひな形があることも多いでしょう。
それ自体は、抜け漏れを防ぐうえで役に立つはずです。

ただし、テンプレートをそのまま使うだけでは
「どこにでもある謝罪文」に見えてしまうおそれもあるでしょう。

大切なのは、次のような調整を自分の手で行うことです。

  • 自社の業種や取引形態に合わせて、原因や再発防止策の中身を書き換える。
  • 自分のポジションや権限の範囲に合わせて、言い切り方や約束のレベルを調整する。
  • 取引先との関係性(新規・長年の付き合い・重要度)によって、敬語のトーンを微調整する。

「型」そのものは共通でも
一文一文を、自社と自分の言葉に置き換えていく意識が必要でしょう。

そうすることで
テンプレートを土台にしつつも、相手にとって「きちんと自分ごととして考えてくれている」と伝わりやすくなるでしょう。


ことのは先生よりひとこと

ことのは先生
ことのは先生

クレーム対応の言い方を身につけておくと、いざというときに慌てずに済むでしょう。
完璧な対応を目指すよりも、「相手の立場を想像しながら、一つひとつの言葉を選ぶこと」を意識してみてください。
今日覚えた表現が、いつか自分と取引先の信頼を守ってくれるはずです。

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