「とんでもございません」は間違い?正しい敬語と褒め言葉・謝罪への返し方
「今回の提案は分かりやすかった。よくまとめたね」
上司にそう言われ、「とんでもございません」と返す。
その場は自然に流れたのに、後から「あれは間違った敬語ではなかったか」と不安になることがあります。
結論から言えば、褒め言葉や賞賛を軽く打ち消す返答として使う「とんでもございません」は、間違いとはいえません。
文化審議会も、この場面での使用には問題がないという見解を示しています。
ただし、感謝や謝罪にも同じように使える万能な返事ではありません。
相手が褒めたのか、感謝したのか、謝罪したのかによって、返すべき内容は変わります。
丁寧な語尾を選んだだけでは、意図まで正確に伝わるとは限らないのです。
結論|「とんでもございません」は褒め言葉への返答なら間違いとはいえない
文化審議会は褒めや賞賛を軽く打ち消す用法を認めている
「とんでもございません」は、長い間、間違った敬語の例として取り上げられてきました。
しかし、現在の判断はそれほど単純ではありません。
元の「とんでもない」には、主に三つの意味があります。
- 思いもかけない、意外である
- もってのほかである
- まったくそうではない、滅相もない
返事としての「とんでもございません」は、三つ目の意味から生まれた表現です。
「そこまで評価していただくほどではありません」「そんなことはありません」と、相手の言葉を控えめに打ち消します。
文化審議会の「敬語の指針」では、部長から「いい仕事をしたね」と褒められ、「とんでもございません」と答える場面が示されています。
出典:文化審議会の「敬語の指針」
そのうえで、相手からの褒めや賞賛などを軽く打ち消す表現としては、「問題がないと考えられる」と説明されています。
したがって、次のような返し方は不自然ではありません。
とんでもございません。皆さまの支えがあっての結果です。
とんでもございません。今後もご期待に沿えるよう努めてまいります。
ここで見落とせないのは、文化審議会が使う場面と意味を示したうえで認めていることです。
「とんでもございません」という形なら、どのような返事にも使えるという意味ではありません。

文法上の説明と現在の使われ方は分けて考える
「とんでもない」は、全体で一つの形容詞と考えられてきました。
そのため、「ない」だけを「ございません」に置き換えた「とんでもございません」は、文法の形から見れば不適切ではないかと指摘されてきたのです。
一方、実際の会話では、相手の褒め言葉を控えめに否定する決まった表現として広く使われています。
「とんでもない」を単純に丁寧にしただけでなく、謙遜の返事として一まとまりの働きを持つようになったと考えると、現在の使い方を理解しやすくなります。
文法上の成り立ちだけを見れば疑問が残る。
現実の言葉遣いを見れば、すでに通じる表現として定着している。
この二つが並んでいるため、「間違い」「正しい」と説明する記事によって答えが分かれて見えるのです。
褒め言葉・感謝・謝罪への使い分け早見表
判断に迷ったときは、相手が何を伝えたのかを先に確認します。
| 相手の言葉・状況 | 使用の目安 | 自然な返し方 | 判断理由 |
|---|---|---|---|
| 上司や取引先からの褒め言葉 | 使える | とんでもございません。皆さまの支えがあっての結果です | 褒めを軽く打ち消す用法に合う |
| 手助けへの感謝 | 使えるが、言い換えも自然 | こちらこそありがとうございます | 感謝には感謝を返すと意図が明確になる |
| 影響のない軽い謝罪 | 場面による | ご丁寧にありがとうございます。どうぞお気になさらないでください | 何を気にしなくてよいかが伝わる |
| 対応済みのミスへの謝罪 | 場面による | ご連絡ありがとうございます。修正版を確認しました | 謝罪を受け取り、解決した事実を返せる |
| 損害や影響が残る謝罪 | 避ける | 影響を確認のうえ、改めてご連絡します | 問題を軽く扱った印象を避けられる |
褒め言葉には謙遜が成立します。
感謝には、こちらの感謝や役に立てた喜びを返せます。
謝罪だけは、問題の重さを確かめなければ判断できません。
なぜ間違いと言われる?「とんでもないことでございます」との違い
「とんでもない」は全体で一つの形容詞と考えられてきた
誤用とされてきた理由は、「とんでもない」をどこで区切るかにあります。
「自信がない」は、「自信がありません」「自信がございません」と言い換えられます。
この場合の「ない」は、存在を否定する言葉です。
ところが、「とんでもない」は、「とんでも」と「ない」を自由に切り離して使う言葉ではありません。
「もったいない」を「もったいございません」と言わないのと同じように考えれば、違和感の理由が見えてきます。
その立場からは、次の形が文法に沿った丁寧表現として挙げられてきました。
ただし、文法の形が整っていれば、どの場面でも最適な返事になるわけではありません。
慣用として定着し、違和感を持たない人が多かった
文化庁が実施した平成15年度「国語に関する世論調査」では、「とんでもございません」という言い方が気になるかを尋ねています。
結果は次のとおりでした。
気になる:17.8%
気にならない:68.3%
どちらとも言えない:12.8%
この調査は、全国の16歳以上を対象に2004年1月から2月に実施されたもので、有効回収数は2,206人でした。
現在の割合を示す調査ではない点には注意が必要です。
出典:平成15年度「国語に関する世論調査」
それでも、文化審議会が「敬語の指針」をまとめる以前から、多くの人が大きな違和感を持たずに受け入れていたことは分かります。
一方で、気になる人もゼロではありませんでした。
相手が言葉遣いに厳しいかどうかを推測し続けるより、正誤の議論が起きにくい別の返し方を選ぶほうが落ち着く場面もあります。
「とんでもないことでございます」へ直せば安全とは限らない
ここで、意外な問題が生じます。
「とんでもございません」が気になるなら、「とんでもないことでございます」へ直せばよい。
そう考えたくなります。
しかし、文化審議会は両者の意味が少し異なると説明しています。
褒め言葉に対して「とんでもございません」と返せば、「そこまで評価していただくほどではありません」という謙遜として伝わります。
一方、「とんでもないことでございます」と返すと、文脈によっては「あなたが褒めたことは、とんでもないことです」と受け取られるおそれがあります。
上司:今回のプレゼンは、とても分かりやすかったよ。
自分:とんでもないことでございます。
話し方や前後の内容から謙遜だと分かる場合もあります。
ただ、耳だけで聞くと、何を「とんでもないこと」と評価したのかが曖昧です。
「とんでもないことでございます」は、出来事や行為を「もってのほかだ」と述べる場面では自然に使えます。
そのような不正が行われていたとすれば、とんでもないことでございます。
褒められたときの返事とは、働きが違います。
誤用を避けたいときは、語尾だけを修正する必要はありません。
お褒めいただき、ありがとうございます。
恐れ入ります。皆さまのご協力があってこその結果です。
返答の意味全体を置き換えれば、文法と受け取り方の両方で迷いにくくなります。

「とんでもございません」の言い換えと例文|相手の言葉別に選ぶ
褒められたときは、感謝してから評価の理由を添える
褒められると、すぐに否定したくなることがあります。
自分だけの成果ではない、まだ十分ではないと思えば、なおさらです。
しかし、相手は見えた成果や感じた良さを言葉にしています。
「そんなことはありません」と何度も否定すると、相手の評価まで退けたように聞こえかねません。
先に受け取り、その後で周囲への感謝や今後の姿勢を添えると自然です。
お褒めいただき、ありがとうございます。チームの支えがあってこその結果です。
恐れ入ります。そのお言葉を励みに、今後も努めてまいります。
身に余るお言葉をいただき、光栄です。ご期待に沿えるよう、一層精進いたします。
褒め言葉を否定せずに受け取る表現は、褒められたときの上品な返し方とビジネス例文でも詳しく紹介しています。
「とんでもございません」を使う場合も、一言で止めません。
とんでもございません。○○部長に方向性をご助言いただいたおかげです。
とんでもございません。皆さまに支えていただき、無事に形にできました。
褒め言葉を軽く打ち消しながら、相手の言葉は受け取る。
その後の一文が、この二つを両立させます。
感謝されたときは、役に立てた喜びを返す
「資料をまとめてくれてありがとう」と言われた場面では、相手が伝えたのは評価より感謝です。
そこで「とんでもございません」と返しても意味は通じます。
ただし、相手の感謝を否定するより、こちらからも感謝や喜びを返したほうが会話は素直につながります。
こちらこそ、ご確認いただきありがとうございます。
お役に立てて何よりです。
無事に進んだとのことで安心しました。
そう言っていただけてうれしく思います。また必要なことがございましたらお知らせください。
「どういたしまして」も、感謝への返事として間違いではありません。
しかし、ビジネスでは、何を受け取り、どう感じたかまで伝えられる表現のほうが次のやり取りへつながります。
次の二つを比べると違いが分かります。
どういたしまして。
お役に立てて何よりです。こちらこそ、早めに資料をご確認いただきありがとうございました。
後者は、相手からの感謝を受け取っただけでなく、こちらが感謝している点も具体的です。
取引先や上司へ感謝を返す表現を増やしたい場合は、ビジネスメールで使える「ありがとう」と「感謝」の例文も参考にしてください。
謝罪されたときは、影響の大きさを確かめてから返す
謝罪への返事で迷うのは、丁寧な表現が足りないからではありません。
相手を安心させてよい状況なのか、まだ判断できていないからです。
待ち合わせに数分遅れたものの、予定には何も影響しなかった。
そのような軽い謝罪なら、相手の恐縮を和らげても問題ありません。
とんでもございません。こちらには影響ございませんでしたので、どうぞお気になさらないでください。
ご丁寧にありがとうございます。予定どおり進められましたので、ご心配には及びません。
ミスはあったものの、修正が完了している場合は、解決した事実を返します。
ご連絡いただき、ありがとうございます。修正版を確認し、問題ないことを確認しました。
ご対応ありがとうございました。差し替えも完了しておりますので、どうぞお気になさらないでください。
まだ損害や業務への影響が確認できていない場合は、謝罪を打ち消してはいけません。
ご連絡ありがとうございます。影響を確認のうえ、明日の午前中までに改めてご連絡いたします。
ご事情は承知しました。今後の対応について、○月○日までにご共有をお願いいたします。
「とんでもございません」と返すと、問題がなかったことまで認めたように受け取られる可能性があります。
自分に許可や判断の権限がない場合も同じです。
謝罪を受け取ったことだけを伝え、事実確認へ進みます。
問題が解決している場面で使える表現は、「気にしないでください」の丁寧な言い換えと返答例で詳しく整理しています。
上司・取引先への会話やメールで失礼に見せない使い方
目上の人にも使えるが、一言だけで終えない
「とんでもございません」は、上司、取引先、顧客など目上の相手から褒められたときにも使えます。
問題は相手の立場より、そこで会話を止めてしまうことです。
上司:今回の改善案は効果が大きかったね。
自分:とんでもございません。
これだけでは、謙遜していることは分かっても、褒め言葉をどう受け取ったのかが見えません。
とんでもございません。現場の皆さんから具体的な意見をいただけたおかげです。
お褒めいただき、ありがとうございます。次回は確認工程もさらに改善したいと思います。
周囲への感謝や次の行動を添えると、単なる否定ではなくなります。
接客や電話では、相手を安心させる内容まで言葉にする
接客では、お客様から感謝されることも、謝られることもあります。
同じ「とんでもございません」でも、後ろに続ける内容は変えます。
お客様から説明を褒められた場合です。
とんでもございません。分かりやすかったとのことで、安心いたしました。
対応への感謝を伝えられた場合です。
とんでもございません。お役に立てて何よりです。
お客様が軽い行き違いを謝った場合です。
ご丁寧にありがとうございます。こちらで確認できましたので、どうぞお気になさらないでください。
電話では表情が見えません。
定型句の後に、安心してよい理由を短く添えると誤解を減らせます。
会社や店舗で応対表現が決められている場合は、その基準に合わせます。
担当者によって「正しい」「間違い」の判断が変わると、言葉遣いより対応の不統一が目立ちます。
メールでは「何が問題ないのか」を具体的に返す
メールの「とんでもございません」は、会話より意味が曖昧になりやすい表現です。
声の調子や表情で、謙遜なのか安心させたいのかを補えないためです。
褒め言葉への返信なら、感謝と今後を続けます。
温かいお言葉をいただき、ありがとうございます。
とんでもございません。皆さまにご協力いただいたおかげで、予定どおり公開を迎えられました。
今後も改善を重ねてまいります。
謝罪への返信なら、確認した事実を伝えます。
ご丁寧にご連絡いただき、ありがとうございます。
修正内容を確認し、問題なく反映されていることを確認しました。
今回の件につきましては、どうぞお気になさらないでください。
問題が残っている場合は、無理に相手を安心させません。
ご連絡いただき、ありがとうございます。
現在、関係部署と影響範囲を確認しております。
確認が取れ次第、○月○日までにご連絡いたします。
メールでは、丁寧な返事よりも、相手が次の状況を判断できる返事が役に立ちます。

丁寧でも不自然になる三つの使い方
大きな不利益が出ているのに、謝罪をすぐ打ち消す
相手から謝罪されると、場を荒立てないために「とんでもございません」と返したくなります。
そうしたかった、とは思います。
しかし、納期の遅延や金額の誤り、情報漏えいなど、影響が残る問題まで打ち消すと、事実と返事が食い違います。
避けたい返し方です。
とんでもございません。お気になさらないでください。
影響が確認できていないなら、次のように返します。
ご連絡ありがとうございます。現時点では影響を確認中のため、社内で整理したうえで改めてご連絡いたします。
相手を責めず、問題も消さない。
そのためには、判断を保留する一文が必要です。
褒め言葉を何度も否定し、自己評価まで下げる
一度の謙遜は自然でも、否定を重ねると会話の向きが変わります。
とんでもございません。私なんて全然です。今回はたまたまで、本当に大したことはしていません。
相手は褒めた理由を説明し直すことになり、こちらを励ます役まで引き受けます。
控えめな姿勢を示すなら、一度で十分です。
恐れ入ります。ご指導いただいた点を形にでき、うれしく思います。
ありがとうございます。次回も同じ水準で進められるよう努めます。
謙遜を短くした分、感謝や行動が見えるようになります。
定型句だけで返し、相手に意味を推測させる
「とんでもございません」には、褒めを打ち消す、感謝に応じる、謝罪を和らげるといった複数の使われ方があります。
そのため、一言だけでは何を否定したのか分からないことがあります。
褒め言葉への返事です。
避けたい:とんでもございません。
自然:とんでもございません。皆さまに支えていただいたおかげです。
感謝への返事です。
避けたい:とんでもございません。
自然:お役に立てて何よりです。こちらこそ、ご確認いただきありがとうございました。
謝罪への返事です。
避けたい:とんでもございません。
自然:ご丁寧にありがとうございます。予定への影響はありませんでしたので、どうぞお気になさらないでください。
後ろの一文には、相手が本当に知りたい情報を入れます。
「とんでもございません」に関するよくある質問
「とんでもありません」と「とんでもございません」の違いは何ですか?
文化審議会の「敬語の指針」では、「とんでもございません」と「とんでもありません」の両方が挙げられています。
どちらも、褒めや賞賛を軽く打ち消す場面で使えます。
「ございません」のほうが改まった響きになり、接客や目上の相手との会話で選ばれやすい表現です。
ただし、丁寧さを上げれば必ず自然になるわけではありません。
日常的な社内会話なら「とんでもありません」「とんでもないです」のほうが、場になじむこともあります。
「とんでもないです」は正しい表現ですか?
「とんでもないです」は、形容詞の「とんでもない」に丁寧語の「です」を付けた表現です。
かつては「形容詞+です」を問題視する考えもありましたが、国語審議会では、形容詞に「です」を付ける言い方を平明で簡素な形として認めています。
現在では広く定着した言い方です。
詳しい経緯は、文化庁の敬語の問題に関する整理でも確認できます。
会話では自然に使えますが、強い謙遜を表すため、相手の褒め言葉を何度も否定しないようにします。
「どういたしまして」とはどう使い分けますか?
「どういたしまして」は、「ありがとう」という感謝への直接的な返事です。
「とんでもございません」は、「そこまで評価していただくほどではありません」「お気遣いには及びません」と、相手の評価や恐縮を軽く打ち消す響きを持ちます。
感謝された場面では、どちらを使っても意味は通じます。
上司や取引先には、関係や用件に合わせて次のように返すと具体的です。
こちらこそ、ありがとうございます。
お役に立てて何よりです。
ご確認いただき、ありがとうございました。
相手から「とんでもございません」と言われたら、何と返しますか?
相手は、褒め言葉や感謝、謝罪を控えめに受け止めています。
さらに謙遜や否定を重ねてもらう必要はありません。
褒め言葉や感謝の後なら、短くお礼を返して本題へ進みます。
ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。
自分の謝罪に対して言われた場合は、相手の気遣いを受け取ります。
そう言っていただけて安心しました。ありがとうございます。
用件が続く場合は、そのまま本題へ進んでも失礼にはなりません。
会話が終わる場面なら、短くお礼を伝えて閉じます。
まとめ|正誤だけでなく、相手の言葉と問題の重さで返し方を決める
迷ったときに確認する三つのポイント
「とんでもございません」は、褒め言葉を軽く打ち消す返答として使うなら、間違いとはいえません。
迷ったときは、次の三点を確かめます。
- 相手は褒めたのか、感謝したのか、謝罪したのか
- 相手の言葉を軽く打ち消したいのか、受け止めたいのか
- 謝罪の原因は解決済みか、影響が残っているか
冒頭の上司から、もう一度「今回の提案は分かりやすかった」と言われたとします。
とんでもございません。皆さまから意見をいただけたおかげです。
この返し方なら、謙遜と周囲への感謝が伝わります。
お褒めいただき、ありがとうございます。そのお言葉を励みに、次回も改善を重ねます。
こちらは、褒め言葉を否定せず受け取る返し方です。
どちらも自然です。
違いは、正しい敬語を知っているかどうかだけではありません。
相手の言葉の何を受け取り、何を打ち消し、次に何を伝えるか。
そこまで決まったとき、返事が今の場面になじみます。
ことのは先生よりひとこと

「とんでもございません」は、褒め言葉を軽く打ち消す場面なら使えます。
感謝には喜びを、謝罪には問題の重さに合う言葉を返しましょう。
丁寧さは、語尾よりも相手の言葉をどう受け取ったかに表れます。

